日本内分泌学会

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教育・研究

研究奨励賞受賞者によるこれまでの研究の紹介と将来への展望

最終更新日:2026年8月27日NEW

2026年度(令和8年度)日本内分泌学会研究奨励賞は 5名の先生方が受賞されました。
これまでのキャリアや若手の先生方へのメッセージをご寄稿下さいましたのでご紹介いたします。
皆様のロールモデルとしてぜひご参考になさってください!

馬越 真希
(九州大学病院 内分泌代謝・糖尿病内科)
副腎由来ホルモン不均衡に基づく骨粗鬆症の分子基盤解明
蟹江 慶太郎
(京都大学 iPS 細胞研究所 増殖分化機構研究部門 免疫再生治療分野)
抗 PIT-1 下垂体炎の革新的疾患モデル作成と病態の解明
木内 謙一郎
(慶應義塾大学医学部 腎臓内分泌代謝内科)
概日リズムによる世代間連関と内分泌代謝恒常性
小林 洋輝
(日本大学医学部内科学系 腎臓高血圧内分泌内科学分野)
原発性アルドステロン症における病型診断を中心とした診療標準化に向けた研究
椎村 祐樹
(久留米大学分子生命科学研究所 遺伝情報研究部門/京都大学大学院医学研究科 分子細胞情報学)
グレリン受容体構造基盤の確立 ~古くて、新しい GPCR 研究~

馬越 真希(九州大学病院 内分泌代謝・糖尿病内科)

受賞タイトル:
副腎由来ホルモン不均衡に基づく骨粗鬆症の分子基盤解明

 このたびは、日本内分泌学会研究奨励賞という大変栄誉ある賞を賜り、心より光栄に存じます。研究のあらゆる局面でご指導くださった小川佳宏先生をはじめ、共同研究者の皆様に、深く御礼申し上げます。

 私は後期研修医として勤務した松山赤十字病院での内分泌診療をきっかけに、内分泌疾患の病態をより深く理解したいと考えるようになり、なかでも骨代謝に強い関心を持つようになりました。その後赴任した島根大学では、カルシウム・骨代謝疾患を中心とした内分泌診療に携わるとともに、大学院では骨代謝に関する基礎研究および臨床研究に取り組み、学位を取得しました。続く京都医療センターでは、骨粗鬆症・サルコペニア外来と副腎腫瘍診療の双方に携わる機会をいただき、副腎腫瘍の患者さんに脆弱性骨折を合併する症例が特に印象に残ったことから、副腎と骨代謝の関連性への関心をさらに深めました。その後、二度の出産・育児により合わせて約2年間研究を中断しましたが、2019年に九州大学へ所属し、キャリア継続支援制度、さらに2021年からは日本学術振興会特別研究員(RPD)としての支援を受けながら、小川佳宏先生のもとで研究を継続してまいりました。

 九州大学では、まず副腎腫瘍に伴う病的なホルモン過剰と骨粗鬆症との関連を検討しました。原発性アルドステロン症では片側性病変が椎体骨折の独立した危険因子であること(Clin Endocrinol 2020)、褐色細胞腫・パラガングリオーマが続発性骨粗鬆症の原因となり腫瘍摘出後に骨密度が改善すること(Bone 2020)、骨密度だけでなく骨質の劣化が骨折発症に関与すること(Bone 2021)、さらに骨粗鬆症と動脈硬化が併存しうること(Osteoporos Int 2020)を報告し、コルチゾールだけでなくアルドステロンやカテコールアミンを含む複数の副腎由来ホルモンの病的過剰が骨粗鬆症に関与しうることを示しました。続いて、健常者ゲノムコホートを用いたメンデルランダム化研究により、病的な過剰状態だけでなく、生理的な範囲のホルモン変動もまた骨量減少や筋力低下と因果的に関連しうることを明らかにし(J Clin Endocrinol Metab 2021, 2022)、さらに網羅的なステロイド代謝産物解析により、単一のホルモンではなく「副腎由来ホルモン不均衡」として病態を総体的に捉える視点を提唱しました(EBioMedicine 2023、J Endocr Soc 2024)。近年はさらに、シングルセル・空間トランスクリプトーム解析を用いて、アルドステロン産生腫瘍内のステロイド産生細胞の不均一性が骨粗鬆症と関連することを分子・細胞レベルで明らかにし(Proc Natl Acad Sci U S A 2025)、炎症マーカーがステロイドプロファイルと骨状態とを橋渡しする可能性も見出しました(J Clin Endocrinol Metab 2026)。臨床研究からステロイド代謝解析、単一細胞・空間解析へと研究手法は広がってきましたが、「副腎由来ホルモンの不均衡が加齢性疾患にどう関与するか」という一貫した問いを持ち続けてきたことが、今回の受賞につながったのではないかと感じています。

 振り返ると、研究を中断した時期も含め、多くの方に支えていただきながらここまで歩んでくることができました。臨床の中でふと生まれた小さな疑問を大切にすること、そして様々なライフイベントを経ても研究を続けていく道が開けていることを、若手の先生方にお伝えできれば幸いです。

 今後も、副腎由来ホルモンと加齢性疾患との関わりについて研究を続けるとともに、学会活動を通じて内分泌学の発展に微力ながら貢献してまいりたいと考えています。改めまして、本賞にご選出いただきましたことに心より感謝申し上げます。


略歴

2009年3月 愛媛大学医学部医学科卒業
2009年4月 松山赤十字病院 初期研修医
2010年4月 愛媛大学医学部附属病院 初期研修医
2011年4月 愛媛大学医学部附属病院 糖尿病内科学 医員
2012年4月 松山赤十字病院 内科(糖尿病・代謝内分泌) レジデント 
2014年4月 島根大学医学部附属病院 内科学第一 医員 
2016年4月 国立病院機構京都医療センター 内分泌代謝内科 専修医 
2018年3月 島根大学大学院医学系研究科博士課程修了(博士(医学)) 
2019年4月 九州大学病院 きらめきプロジェクト 学術研究員 
2021年4月 日本学術振興会特別研究員(RPD) 
2024年4月 九州大学病院 内分泌代謝・糖尿病内科 助教

主な受賞歴

2020年 日本内分泌学会 臨床内分泌代謝Update 優秀ポスター賞 
2021年 九州大学若手女性研究者賞(伊藤早苗賞)最優秀賞 
2024年 日本内分泌学会 研究助成制度 若手研究者による研究課題 
2025年 日本内分泌学会 若手研究奨励賞 
2025年 日本骨代謝学会 研究奨励賞

 


蟹江 慶太郎(京都大学 iPS 細胞研究所 増殖分化機構研究部門 免疫再生治療分野)

受賞タイトル:
抗 PIT-1 下垂体炎の革新的疾患モデル作成と病態の解明

 このたびは栄誉ある日本内分泌学会研究奨励賞に選出いただき、大変光栄に存じます。本賞は、私一人の力で到達できたものでは決してなく、長年にわたりご指導くださった先生方、苦しい時期をともに支えてくださった共同研究者、同僚、患者さん、そして日々研究を支えてくださる多くの方々のおかげであると深く感じております。特に、神戸大学在籍時より一貫して研究の方向性を示してくださった髙橋裕先生、井口元三先生には、臨床内分泌学に根差した問いの立て方、そして一つの疾患概念を育てることの重要性を教えていただきました。

 私が内分泌学に強く惹かれた原点は、学生時代に感じた「遠く離れた臓器がホルモンを介して精緻に連関する」ことへの素朴な驚きでした。初期研修医・専攻医として兵庫県立加古川医療センターで診療に携わるなかで、飯田啓二先生から「適切なホルモン補充により、患者さんの生活が大きく改善する」ことを繰り返し教わりました。内分泌診療は患者さんの生活の質の改善を直接実感できる領域であり、臨床の面白さと責任を学びました。

 神戸大学医学部附属病院では、臨床、臨床研究、学生教育を同時に担う厳しさを学びました。診療の傍らで下垂体疾患の症例を丁寧に観察し、なぜこの患者さんにこの内分泌障害が起こるのか、どこまでが既存の疾患概念で説明できるのかを考え続けたことが、その後の研究の出発点となりました。大学院では、抗PIT-1下垂体炎を中心とした自己免疫性下垂体疾患の研究に取り組みました。坂東弘教先生、山本雅昭先生、福岡秀規先生からは、希少疾患を一例一例大切にし、臨床像を積み重ねて病態を読み解く姿勢を学びました。

 抗PIT-1下垂体炎は、PIT-1を発現する下垂体前葉細胞が選択的に傷害される稀な自己免疫性下垂体炎です。私たちは、本疾患が胸腺腫以外の悪性腫瘍でも発症しうることや、その背景に腫瘍での異所性PIT-1発現が関与することを明らかにし、「傍腫瘍性自己免疫性下垂体炎」という疾患概念の確立に取り組んできました。一方で、本疾患の本質である細胞傷害性T細胞(CTL)による下垂体傷害をヒト細胞レベルで直接証明することは、長く大きな課題として残されていました。

 この課題に取り組む上で転機となったのが、松本隆作先生との出会いでした。名古屋大学須賀英隆先生らが開発されたヒトiPS細胞由来下垂体分化技術を教えていただき、患者と同一HLAを有する下垂体組織をin vitroで再現するという発想に辿り着きました。

 一方で、自己免疫疾患の病態解明だけでなく、その先にある治療開発にも携わりたいという思いが次第に強くなりました。そこで私は、iPS細胞技術を用いた免疫再生治療の臨床応用が進む京都大学iPS細胞研究所(CiRA)金子研究室に参画しました。当初は新たな研究環境への適応に苦労しましたが、分化誘導組織を大量に維持した時期、遺伝子編集がスムーズにいかない時期、CTLの樹立や機能評価が思うように進まない時期が長く続きました。そうした中で、浦井伸先生をはじめとする共同研究者と議論を重ね、少しずつ課題を克服していきました。

 さらに京都大学iPS細胞研究所では、伊藤剛先生、金子新先生から、抗原特異的CD8陽性キラーT細胞を単離・評価する独創的な方法論についてご指導いただきました。患者由来iPS細胞から作製した下垂体オルガノイドと、同一患者末梢血由来のPIT-1反応性CTLを共培養することで、PIT-1特異的CTLがHLA拘束性に下垂体前葉細胞を選択的に傷害することを示すことができました(Nature Communications, 2025)。この成果は、抗PIT-1下垂体炎の病態を説明するだけでなく、T細胞性自己免疫疾患を患者iPS細胞と患者由来T細胞の組み合わせで再現するという、新しい疾患モデルの可能性を示すものと考えています。

 振り返ると、この研究から最も学んだことは、研究は「自分の専門の内側」だけでは完結しないということです。内分泌学、免疫学、幹細胞学のいずれが欠けても本研究は成立しませんでした。自分に足りない技術や知識を認め、適切な共同研究者に教えを請い、粘り強く議論することの大切さを痛感しました。同時に、若手の時期に一つのテーマに長く向き合い、多くの失敗を経験したことは、何にも代えがたい財産になりました。

 今後は、抗PIT-1下垂体炎モデルをさらに発展させ、エピトープ、T細胞受容体、HLA分子の組み合わせをより詳細に解析し、発症予測や創薬へと展開したいと考えています。また、現在所属する京都大学iPS細胞研究所では免疫再生治療という新しい領域にも挑戦しています。内分泌学で学んだ視点をiPS細胞技術や免疫細胞治療と融合させ、自己免疫性内分泌疾患の病態解明と新たな治療法の開発につなげていきたいと考えています。

 若手の先生方には、臨床で感じた小さな違和感や疑問を、どうか大切にしていただきたいと思います。すぐに論文になる問いばかりではありませんし、むしろ多くの研究は、思うように進まない時間の方が長いかもしれません。それでも、患者さんから与えられた問いを大切にし、周囲の人に助けを求めながら続けていくことで、いつか自分にしか歩めない道が形になると信じています。最後になりますが、改めて髙橋裕先生、井口元三先生、飯田啓二先生、坂東弘教先生、山本雅昭先生、福岡秀規先生、松本隆作先生、浦井伸先生、伊藤剛先生、金子新先生をはじめ、これまでご指導・ご支援いただいたすべての先生方、共同研究者、同僚の皆様に心より感謝申し上げます。本賞を励みに、今後も日本内分泌学会の発展と若手研究者の育成に少しでも貢献できるよう、精進してまいります。


略歴

2011年 徳島大学医学部医学科 卒業
2011年 兵庫県立加古川医療センター 初期研修医
2013年 同 総合内科 後期研修医
2014年 神戸大学医学部附属病院 糖尿病・内分泌内科 医員
2015年 六甲アイランド甲南病院 内科 医員
2017年 神戸大学大学院医学研究科 入学
2021年 神戸大学大学院医学研究科 卒業
2021年 神戸大学医学部附属病院 糖尿病・内分泌内科 医員
2022年 京都大学iPS細胞研究所 増殖分化機構研究部門 特定研究員
2025年 京都大学iPS細胞研究所 臨床応用研究部門 免疫再生治療分野 特命助教

主な受賞歴

2019年 日本内分泌学会学術総会 KO round 高得点演題賞
2020年 日本内分泌学会 臨床内分泌代謝Update 優秀ポスター賞
2022年 日本内分泌学会 若手研究奨励賞(YIA)

 



木内 謙一郎(慶應義塾大学医学部 腎臓内分泌代謝内科)

受賞タイトル:
概日リズムによる世代間連関と内分泌代謝恒常性

 このたびは、日本内分泌学会研究奨励賞という大変栄誉ある賞を授与頂き、心より感謝申し上げます。これまでご指導いただきました伊藤裕先生(慶應義塾大学)、市原淳弘先生(東京女子医科大学)、林香先生(慶應義塾大学)、Paolo Sassone-Corsi先生(カリフォルニア大学アーバイン校)、ならびにこれまで私の臨床・研究活動でお世話になりました全ての方々に深く御礼申し上げます。

 私は2008年に、伊藤裕先生が主宰されていた慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科に大学院生として入局し、市原淳弘先生のご指導のもとでレニン・プロレニンの受容体の研究に携わったことが内分泌学研究の出発点になります(Circ Res 2010)。学位取得後に伊藤裕先生より体内時計と内分泌代謝分野での研究留学をご提案頂き、2013年よりカリフォルニア大学アーバイン校のPaolo Sassone-Corsi先生のもとで、現在の私の研究分野であります、概日リズムと心血管内分泌代謝恒常性の研究をスタート致しました。概日リズムは、睡眠、ホルモン、血圧など、生体の幅広い生理、代謝、行動に見られる現象であることが分かっておりましたが、時計遺伝子のみならず、非常に多くの遺伝子、タンパク質、代謝産物、更にはRNAプロセシング、タンパク質の翻訳後修飾、クロマチン構造といった分子細胞生物学的な現象にもリズムが認められることが、近年の網羅的解析から分かってきた、私が留学したのはそのような時期でした。国が変わり、研究室が変わり、研究テーマも変わったため、しばらくは実験が上手くいかないことが多々ありましたが、ラボの同僚に相談したり、バッファー調整方法を見直したりするなど、トラブルシューティングを一つずつしていく中で、徐々に実験が上手くいくようになりました。研究室ではウェット研究に加えて、RNA-seq、メタボローム、ChIP-seqといった網羅的解析を組み合わせることで、システム生物学のアプローチから、食事の種類や摂取時刻、空腹のタイミングが臓器の概日リズムに与える影響を検討し、末梢臓器のリズムが臓器特異的に食事や空腹に応答することで、振動する遺伝子や代謝産物の数や種類が変化する、概日リプログラミング(再編成)という現象の解明に取り組みました(Cell Rep 2018, Proc Nat Acad Sci 2019)。留学生活の後半では、ある臓器のリズムが別の遠隔臓器のリズムからどのような影響を受けているのか、概日リズムを介した協調的臓器間ネットワークの基盤を探索する検討にも取り組みました(Cell 2019)。また、線維芽細胞から人工多能性幹細胞(iPS細胞)へのリプログラミングの過程における概日時計機能の抑制が幹細胞性にもたらす分子生物学的な意義の研究にも携わりました(Cell Rep 2023)。5年間の留学生活では、実験技術に加えて、論文執筆の過程での議論や推敲に時間をかけることの重要性、研究における多様な価値観やアプローチに触れることの大切さを経験することが出来ました。

 2018年に帰国後、伊藤裕先生、林香先生のご支援のもとで、概日リズムと心血管内分泌代謝恒常性の研究を慶應義塾大学で立ち上げ、大学院生とともに研究活動を行っています。大学院生のYaoさんとの研究では妊娠母体概日リズム障害が次世代の食行動リズム異常やレプチン抵抗性を介して肥満感受性を亢進すること(Cell Metab 2025)、大学院生の鳥光先生との研究では塩分摂取のタイミングが概日時計やアルドステロンのリズムを介して大腸概日リズムや血圧日内変動を調節することを報告いたしました(Sci Adv 2026)。研究を通じた人との出会いやつながりを大切に、今後も大学院生と共に研究活動を続けていきたいと考えています。

 内分泌ホルモンには日内変動や律動性といった多様でかつ複雑な分泌様式が見られ、睡眠や食事などの行動リズムによっても影響を受けます。私は、臓器間の時間情報をつなぐ液性因子としての内分泌ホルモンの役割に注目しております。臓器に表出される遺伝子、タンパク質、代謝産物などの発現リズムと、多種多様な内分泌ホルモンの分泌変動が、睡眠や食事などの行動リズムによって変容するパターンを総体として理解し、生活習慣や臓器障害などの摂動に対する適応性や、未病における生体変化の検出などに役立てていきたいと考えております。

 これまで私の研究を支えて下さった多くの先生方に改めて感謝申し上げます。この度の受賞を励みに、今後も研究活動を通じて内分泌学の発展に微力ながら貢献したいと考えております。今後もご指導ご鞭撻のほど、何卒よろしくお願いいたします。


略歴

2006年    慶應義塾大学医学部卒業
2011年    慶應義塾大学大学院医学研究科博士課程修了
2013-2018年 米国カリフォルニア大学アーバイン校医学部
        Center for Epigenetics and Metabolism, assistant specialist
        (Paolo Sassone-Corsi研究室)
2018年    慶應義塾大学医学部 腎臓内分泌代謝内科 特任助教
2020年    慶應義塾大学医学部 腎臓内分泌代謝内科 助教
2022年    慶應義塾大学医学部 腎臓内分泌代謝内科 専任講師(学部内)
2023年8月   慶應義塾大学医学部 腎臓内分泌代謝内科 専任講師
2024年6月   慶應義塾大学医学部 腎臓内分泌代謝内科 准教授

 



小林 洋輝(日本大学医学部内科学系 腎臓高血圧内分泌内科学分野)

受賞タイトル:
原発性アルドステロン症における病型診断を中心とした診療標準化に向けた研究

 このたびは日本内分泌学会研究奨励賞という栄誉ある賞をいただき、心より御礼申し上げます。私は比較的早い時期から、臨床を基盤としながら、そこで生じる疑問を研究によって検証し、診療に還元するキャリアを志向してきました。まず臨床医としての基盤を築くため、初期研修に続いて総合内科・感染症、さらに腎臓・高血圧・内分泌領域の診療を重ねました。その中で抱いた「なぜ同じ病気でも経過が異なるのか」「現在の診断法は本当に最善なのか」という問いが、その後の研究を進める原動力となりました。

 まず最初に取り組んだのが原発性アルドステロン症(primary aldosteronism: PA)です。PAは頻度の高い二次性高血圧でありながら、特に片側性か両側性かを判定する病型診断には多くの課題があります。私はまず、日常診療で得られる情報から病型を予測できないかを考え、単施設データを用いた両側性PAの予測スコアを作成しました。その後、全国多施設共同研究Japan Primary Aldosteronism Study(JPAS)に参加する機会をいただき、私の研究は大きく広がりました。

 ここで、成瀬光栄先生(医仁会武田総合病院)への感謝を特に記したいと思います。成瀬先生がJPASという全国規模の研究基盤を構築し、若手研究者にも貴重なデータを用いて臨床的に重要な問いに挑戦する機会を与えてくださらなければ、現在の私はありません。研究テーマの着想から解析、論文化に至るまで、成瀬先生には常に本質的な視点を教えていただきました。同時に、若手の考えを尊重し、挑戦を後押ししてくださったことが何より大きな支えでした。現在、この研究基盤はJPAS-IIへと発展し、代表を務められる曽根正勝先生(聖マリアンナ医科大学)のもとで、私も引き続きPA研究に携わる機会をいただいています。曽根先生のご指導とご支援にも、心より感謝申し上げます。

 JPASでは、PA治療直後のeGFR低下が必ずしも腎障害を意味せず、その後の長期腎機能と関連することを示しました(Hypertension, 2019)。また、副腎静脈サンプリング(AVS)におけるACTH負荷が左右差を減弱させ、一部の片側性症例を両側性と判定し得ることを外科的転帰から検証しました(Eur J Endocrinol, 2020)。さらに、2021年に血漿アルドステロン濃度測定がRIA法からCLEIA法へ全国的に移行するという大きな転換期には、新測定法がPA診断や病型分布に与える影響を予測・検証し、診療標準化に関わる研究へ発展させました(Endocr J, 2023; Hypertens Res, 2024)。近年は、国際多施設データを用いてAVSのLaterality Indexと手術適応の関係を再検討し、診断基準を「慣習」ではなくアウトカムに基づいて考える研究を進めています(J Clin Endocrinol Metab, 2025)。私にとってPA研究の一貫したテーマは、目の前の診療上の違和感を、多施設データで検証し、より良い診療へ戻すことです。自分の小さな疑問が全国、さらに国際共同研究へ広がっていく過程は、研究の最も楽しい部分でもあります。

 一方で、2018年から3年半、ハーバード大学医学部ジョスリン糖尿病センターに留学し、糖尿病関連腎臓病(diabetic kidney disease: DKD)の研究に取り組みました。渡米直後は自分の統計学の力不足を痛感しました。そこでHarvard CatalystのApplied Biostatistics Programで学び直し、研究の考え方そのものを鍛え直しました。Krolewski教授の研究室では、SOMAscanなどの大規模プロテオーム解析を用い、腎不全進展を予測する血中蛋白を探索しました。とりわけNBL1という蛋白を同定し、DKDの末期腎不全進展との関連を報告できたことは、私の研究人生の大きな転機でした(Kidney Int, 2022; Sci Transl Med, 2022)。その後は、血中蛋白の「一時点の値」だけでなく「経時的変化」に着目する研究へ発展させています(CJASN, 2025)。

 PAとDKDは異なる疾患に見えますが、私の中ではつながっています。臨床データから問いを見つけ、多施設研究で検証し、さらにプロテオミクスを用いて病態の分子基盤へ踏み込む。現在は、留学で学んだ技術をPA研究にも持ち帰り、PAに特徴的な血中蛋白プロファイルから新たな診断バイオマーカーや治療標的を見いだす研究を進めています。将来は、AVSを含む負担の大きい診断を必要な患者に適切に絞り込み、一人ひとりに最適な治療を届けるための基盤を作りたいと考えています。

 研究では、思うような結果が出ないことも、論文がなかなか通らないこともあります。しかし振り返ると、研究を前に進めたのは「自分一人の能力」ではなく、人との出会いと、分からないことを素直に教えてもらう姿勢でした。成瀬先生、曽根先生、阿部雅紀教授、Krolewski教授をはじめ、国内外の多くの共同研究者、同僚、後輩に心から感謝しています。若い先生方には、最初から大きなテーマを持つ必要はないとお伝えしたいです。日常診療で感じた小さな疑問を大切にし、まず一つの解析、一つの発表から始める。その過程で自分に足りないものが見えたら、学びに行き、助けを求める。研究は個人競技に見えて、実際にはチームスポーツです。私自身もまだ道半ばですが、これからも臨床の疑問を研究につなげ、その成果を再び患者さんの診療へ戻すことを続けていきたいと思います。

略歴

2011年 日本大学医学部医学科 卒業
2011年–2013年 日本大学医学部附属板橋病院 初期臨床研修医
2013年–2014年 亀田総合病院 総合内科・感染症科
2013年–2017年 日本大学大学院医学研究科 博士課程修了
2017年–2018年 東京都立広尾病院 糖尿病・内分泌内科
2018年–2021年 Joslin Diabetes Center, Harvard Medical School(日本学術振興会 海外特別研究員)
2018年–2019年 Harvard Catalyst, Certificate in Applied Biostatistics 修了
2022年–現在 日本大学医学部 内科学系腎臓高血圧内分泌内科学分野 助教

主な受賞歴

2016年 第59回日本腎臓学会学術総会 優秀演題賞
2020年 一般財団法人 近藤記念医学財団 学術奨励賞
2021年 第11回腎不全研究会 特別奨励賞
2022年 日本内分泌学会 Young Investigator Award(YIA)
2023年 日本腎臓学会 Young Investigator Award(YIA)
2023年 日本高血圧学会 Young Investigator Award(YIA)
2023年 The 12th Chronic Kidney Disease Frontier Meeting CKD frontier award
2023年 第59回高血圧関連疾患モデル学会学術総会 中尾賞
2023年 第6回Uremic Toxin研究会 優秀賞
2023年 公益財団法人UBE学術振興財団 第63回学術奨励賞
2025年 第55回日本腎臓学会東部学術大会 大会長賞
2026年 日本内分泌学会 研究奨励賞

 



椎村 祐樹(久留米大学分子生命科学研究所 遺伝情報研究部門/京都大学大学院医学研究科 分子細胞情報学)

受賞タイトル:
グレリン受容体構造基盤の確立 ~古くて、新しい GPCR 研究~

 この度は、日本内分泌学会研究奨励賞を賜り、選考委員の先生方、ならびに日本内分泌学会の会員の先生方に心よりお礼申し上げます。10年以上にわたり取り組んできたグレリン受容体の構造研究に対して、歴史ある本賞を授与いただきましたことを、大変光栄に存じます。

 受賞対象となりました「グレリン受容体構造基盤の確立」は、指導教官であった児島将康先生とともに立ち上げた研究テーマです。2012年にサバティカルから戻ってこられた児島先生は、構造解析に関する論文を熱心に読まれるようになりました。研究室には構造生物学の専門家はおらず、私も当時、GPCRの構造解析に強い関心を持っていたわけではありません。何が要点なのか、なぜこの実験が必要なのか、十分に理解できないまま2人で少しずつ慣れない分野の論文を読み進める日々が続きました。

 翌年2月になって、児島先生から突然「4月から京都に行ってほしい」と言われました。京都大学の岩田想先生のもとで構造生物学を学び、グレリン受容体の構造解析に挑戦するためです。この頃、GPCR構造はまだ3つしか決定されておらず、世界的にも難易度の高い研究でした。もちろん私にとっても見通しの立たない大きな挑戦でしたが、それまでの半年間で、児島先生から「研究者に挑戦の機会は何度も来るもんやない。打席に立てる時が来たら、必ずバットを振るんや。」「やって失敗するのとやらんまま終わるんやったら、やって失敗した方がいいんじゃないか。」「研究者は夢を見らんといかんのや。」と熱くご指導いただいていたこともあり、この研究に取り組むことにしました。

 しかし思い返すと、私がGPCRに惹かれた原点はもっと以前にあります。学生時代、決して熱心な学生ではなかった私ですが、GPCRを介したシグナル伝達の授業だけは鮮明に覚えています。生理活性物質や医薬品がGPCRに結合して、細胞の中で情報を伝えて恒常性を保つ、病気を治す。そうした生命現象を一つの仕組みとして理解できることに強い興味を感じていました。一方で、修士課程修了後に大学教員として勤めていた際に、学生から「誰も見たことがないのに、なぜGPCRのシグナル伝達はこのように説明できるのか」と問われ、考えさせられる出来事もありました。学生からすれば何気ない疑問をそのままぶつけたつもりだったのかもしれませんが、私にとってこの質問はとても印象的で深く心に残っています。当時の私は、教科書の内容を正しく理解し、説明できることが大事だと思っていました。しかし今になって思うと、その学生の問いは非常に本質的でした。その後、GPCRの構造解析を研究することになり、“見えなくて当然”と理解していた受容体の動きを、立体構造として可視化する立場となりました。視覚的に理解することで、これまで機能や応答から説明されてきた現象に強い説得力が与えられることを、身をもって体験しました。

 実際の研究は、予想以上に困難でした。グレリン受容体の発現・精製、結晶化はいずれも難しく、研究は決して順調ではありませんでした。それでも変異体スクリーニングや抗体作製などを一つずつ積み重ねることで、最終的に世界で初めてグレリン受容体の立体構造を決定することができました。

 その中で素晴らしい出会いにも恵まれました。2013年に、岩田想先生が主催されたセミナーでBrian Kobilka先生にお会いする機会がありました。その時は自己紹介をするだけでしたが、グレリン受容体の最初の立体構造を発表した後に国際共同研究の機会を得て、Kobilka研究室に留学することになりました。あの時の短い出会いが、のちにスタンフォードでの研究につながるとは、当時は想像もしていませんでした。

 このような経験を振り返ると、スティーブ・ジョブズが語った“connecting the dots”という言葉を思い出します。ただ、私にとってのそれは単に点と点をつなぐ華やかな成功体験というよりも、遠回りや停滞を含めた多くの点が後になってようやく意味を持つという泥臭い経験です。未来に向かって点をあらかじめつなぐことはできません。ときには遠回りに見えた選択や、思うように進まなかった経験も、振り返ると一つの線になっていることがあります。若手研究者の先生方にお伝えしたいのは、今取り組んでいることの意味がすぐに見えなくても、焦る必要はないということです。むしろ、自分の中に少しでも引っかかる疑問や、面白いと感じる瞬間があるのなら、それを大切にしてほしいと思います。そうした多数の点が、いつか一つの線となって研究者としてのストーリーを形づくるのだと思います。

 今回の受賞にあたり、児島将康先生、岩田想先生、Brian Kobilka先生をはじめ、これまでご指導、ご助言をいただいた多くの先生方、共同研究者、研究室の皆様、日本内分泌学会の皆様に深く感謝申し上げます。そして、これから先の出会いや経験もいつか新しい線につながるものと信じています。今回の受賞を励みに、今後もGPCR研究を進めるとともに、若手研究者が将来を描けるような中堅研究者像を示せるよう、研究と学会活動に尽力してまいります。


経歴

2007年 九州保健福祉大学 薬学部 卒業
2009年 鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科修士課程 修了
2009年 九州保健福祉大学 薬学部 助手
2014年 日本学術振興会 特別研究員 (DC2)
2015年 久留米大学大学院 医学研究科 修了
2016年 京都大学大学院 医学研究科 分子細胞情報学 特定研究員
2017年 久留米大学 分子生命科学研究所 遺伝情報研究部門 助手
2021年 スタンフォード大学医学部 Kobilka研究室 客員研究員
2025年 久留米大学 分子生命科学研究所 遺伝情報研究部門 講師

主な受賞歴

2018年 日本内分泌学会 若手研究奨励賞
2019年 GPCR研究会 松尾研究奨励賞
2023年 日本心血管内分泌代謝学会 高峰譲吉研究奨励賞
2024年 日本内分泌学会 内分泌代謝学サマーセミナーポスター賞

 

2018年度受賞者
2019年度受賞者
2023年度受賞者
2024年度受賞者
2025年度受賞者
 

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