学会の発展の鍵は、『多様性(ダイバーシティー)』にあると言われます。性別、年齢、国籍だけでなく、専門(臨床、基礎研究、内科、外科、小児科…)、所属(大学、病院、企業、研究所・・・)、職種(医師、博士、医療専門職・・・)、研究対象(ヒト、動物、細胞、分子レベル・・・)など、多様性とは学問の質にも関わる重要な鍵です。
男女共同参画推進委員会(JES We Can: Japan Endocrine Society Women Endocrinologists Association)は、学会の多様性を目指す活動の一翼を担っています。その活動やロールモデルを紹介すべく、リレーメッセージを企画しました。ひとつひとつのメッセージから感じ取っていただくことがあると思います。是非、お読みください。
静岡での仕事とくらし
静岡県立総合病院 糖尿病・内分泌代謝センター
小杉 理英子
今回リレーメッセージを担当いたします、静岡県立総合病院の小杉理英子です。
2021年よりJWC Tokaiの活動に参加させていただいています。
私は2004年に大学を卒業し、初期研修終了後はずっと一般病院で勤務してきました。
ロールモデルとして紹介されるには、①大学で研究・留学している、②家庭と仕事を両立して充実している、といったエピソードが必要なのではないかと思います。けれど私はそのどちらでもありません。そのため、エッセイに何を書いたらよいのかずいぶん悩みましたが、せっかくの機会ですので今回はその二点について、自分の思いを記してみたいと思います。
① 基礎研究への興味と臨床遺伝専門医
私は現在大学の医局に所属しておらず、大学院に進学した経験もありません。そのため基礎研究が実際にどういうものかを知ることはできませんでした。以前より、興味はあったものの、臨床医として成長することを優先した結果、大学院に進むタイミングを逸してしまいました。もし研究に没頭できたら、また違った世界が広がったのかもしれないと思うこともあります。そのため、若い先生方で研究に少しでも興味のある方は、機会のあるときに大学院に進むのも良い選択だと思います。
とはいえ、私は現在の環境に大変満足しています。2011年から静岡県立総合病院の内分泌代謝センターで勤務を続けていますが、入職当時は医師7年目にもかかわらず、学会発表の経験もなく、学会自体にもほとんど参加したことがありませんでした。パワーポイントの使い方も知らず、「おぉ、そこからか」と指導していただいたことを今でも覚えています。何もできなかった私に、よく臨床研究や論文作成、国際学会発表の機会を与えてくださったものだと、今でも上司の懐の深さを感じ、感謝しています。
また、学位を取らない代わりに、勤務しながら取得できる資格をと考え、2020年に臨床遺伝専門医を取得しました。現在は内分泌内科と遺伝診療科を兼務しています。一般病院で遺伝を専門とする医師は少なく、他科の先生方から相談を受けることも多くあります。臨床遺伝という自分の基盤を持てたことは、大きな自信につながっています。

2017年ENDO(米オーランド)。指導してくださった先生方と
② 家庭との両立は難しい
私は産後半年で非常勤として復職し、1年後には常勤となり夜間業務も担当しました。その頃は仕事が特に忙しく、子育てのほとんどを両親に頼りました。両親も現役で働いているため、0歳と1歳の孫を育てることがどれほど大変だったかは、想像に難くありません。
最近は家庭と仕事をうまく両立している女性医師が増えているように感じます。素晴らしいことだと思う一方で、私はきっとそういう器用な生き方はできないのだろうと感じています。若い頃にあまり考えず無計画に過ごしてきたため、ライフイベントを全速力で突っ走ってきてしまったように思います。ですから、私から言えることは多くありません。強いて挙げるなら、結婚・妊娠・出産といったライフイベントについては、学生時代や研修医の頃からある程度の人生設計をして、その目標に向けて準備しておくことが大切ではないか、というくらいです。
③ 日常の楽しみ
話は変わりますが、この夏、20年前からやってみたいと思っていたサーフィンに挑戦しました。年齢のことや怖さもあり迷いましたが、青い空と広い海のもと、ほんの一瞬でも波に乗れたときはとても爽快でした。安全には十分注意が必要ですが、意外と40~50歳代のサーファーが多く、いくつになっても新しいことに挑戦するのは悪くない、と改めて感じました。

自宅から車で1時間の海岸
おわりに
私は研究者として華やかな実績を残したわけでもなく、家庭と仕事を理想的に両立できたわけでもありません。それでも支えてくださる方々のおかげで、臨床を続けることができました。
私の経験が誰かの参考になるかどうかはわかりませんが、「自分らしく続けていくことも大切だ」と感じていただけたら嬉しく思います。
これまでのリレーメッセージ
いくつになっても夢を持つ ~内分泌代謝内科医として歩んだ26年~(2025年6月)
公立陶生病院 内分泌・代謝内科 赤羽 貴美子
内分泌代謝内科医としての今までとこれから(2024年9月)
独立行政法人国立病院機構 四国こどもとおとなの医療センター 吉田 守美子
自分自身であり続ける(2024年2月)
島根大学医学部内科学講座内科学第一(内分泌代謝内科) 守田 美和
産婦人科医として考えること(2023年5月)
島根大学 医学部 産科婦人科 折出 亜希
様々な多様性が活きる内分泌診療へ、そして医療者教育へ(2023年3月)
岡山大学学術研究院医歯薬学域(医)総合内科学 くらしき総合診療医学教育講座
岡山大学病院 内分泌センター 三好 智子
小児内分泌科医の立場から
ー日本小児内分泌学会(JSPE)における10年間の女性医師の動向調査についての報告ー
(2022年8月)
医療法人 むらしたこどもクリニック 理事長
日本小児内分泌学会 男女共同参画・ワークライフバランス委員 村下 眞理
areからwereへ(2022年7月)
政策研究大学院大学 名誉教授、跡見学園女子大学 心理学部臨床心理学科 特任教授 鈴木(堀田)眞理

