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教育・研究

アルドステロン産生腺腫の不均質性

最終更新日:2026年9月17日NEW

アルドステロン産生腺腫の不均質性

 原発性アルドステロン症の主要な原因であるアルドステロン産生腺腫(aldosterone-producing adenoma: APA)は、副腎腫瘍からアルドステロンが自律的に過剰分泌され、高血圧や低カリウム血症を引き起こす疾患である。近年のゲノム、シングルセル、空間オミクス解析の進歩により、APAは従来考えられていたような「アルドステロンを過剰産生する均一な腫瘍」ではなく、腫瘍間・腫瘍内の双方で多様な分子学的特徴を有する不均質な腫瘍であることが明らかとなってきた。

 APAの腫瘍間不均質性の中心となるのがKCNJ5、CACNA1D、ATP1A1、ATP2B3などの体細胞変異である。KCNJ5変異は東アジアで高頻度に認められ、女性に多い、腫瘍径が大きい、術後の高血圧治癒率が高いなどの臨床的特徴を有する。一方、ATP1A1、ATP2B3、CACNA1D変異例は緻密細胞(compact cells)が優位で、アルドステロン合成酵素(CYP11B2)発現が高い傾向を示す。体細胞変異によってステロイド代謝、遺伝子発現、DNAメチル化などの分子学的特徴も異なることが報告されており、臨床像の差につながっている可能性がある1),2)。

 一方、免疫組織化学的解析により、腫瘍内のCYP11B2発現は必ずしも均一ではないことが指摘されており、腫瘍内の機能的不均質性を示唆している。シングル核RNAシークエンス解析では、KCNJ5変異APAにおいて腫瘍内でステロイド合成酵素の発現に著しい細胞間差が認められた。同一腫瘍内の細胞であっても転写状態や代謝状態は大きく異なり、複数の分化経路を経てアルドステロン産生能を獲得する可能性が示された3)。

 さらに、KCNJ5変異APAのマルチオミクス解析では、ストレス応答性細胞からアルドステロン産生細胞へ向かう系統と、コルチゾール産生細胞を経て間質様細胞へ至る系統が同定された(図)。後者は腫瘍内コルチゾール産生や椎体骨折リスクとも関連し、KCNJ5変異APAにおける機能的不均質性が臨床的影響を及ぼすことを示した。また、腫瘍微小環境の解析では、脂質関連マクロファージとコルチゾール産生細胞や間質様細胞との相互作用がステロイド産生や腫瘍増殖を促進する可能性が示された4)。加えて、最近の統合トランスクリプトーム解析では、副腎球状層細胞から直接APAへ進展する経路とアルドステロン産生微小結節を経る段階的経路という複数の腫瘍形成経路も提唱されている5)。

 このように、APAの病態は体細胞変異に加え、腫瘍細胞の多様性や腫瘍微小環境が相互に作用しながら形成されることが明らかとなってきた。今後、APAの不均質性の理解が進むことで新しい分子分類やバイオマーカー開発、さらには特定の細胞集団や腫瘍微小環境を標的とした新規治療法の開発につながることが期待される。
 


(図) KCNJ5変異APAの4つの異なる腫瘍細胞集団


【文献】
1) Azizan EAB, et al. Nat Rev Nephrol 19: 788-806, 2023.
2) Oki K, et al. Endocr J 67: 989-995, 2020.
3) Murakami K, et al. Hypertension 81: 361-371, 2024.
4) Yokomoto-Umakoshi M, et al. Proc Natl Acad Sci U S A 122: e2421489122, 2025.
5) Sun Z, et al. Adv Sci (Weinh) 13: e05410, 2026.


兼子大輝(九州大学病院 内分泌代謝・糖尿病内科)
2026年度YIA受賞者

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