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教育・研究

糖尿病克服に向けた膵β細胞補充療法の現状

最終更新日:2025年11月18日NEW

糖尿病克服に向けた膵β細胞補充療法の現状

膵島移植の現在地と課題
1型糖尿病に対する膵島移植は、インスリン治療から患者を解放しうる根治的治療法として位置付けられます1)。実際、膵島や膵臓の移植によるβ細胞補充はインスリン依存からの脱却と重症低血糖リスク低減につながりますが、臓器提供数や膵島品質の制約、免疫抑制による長期安全性、複数回移植の必要性など、課題も少なくありません。とくに我が国では、ドナー不足により移植機会が限られ、安定した治療提供体制が大きなテーマとなっています。

幹細胞由来膵島細胞治療の新展開
こうした課題に対し、増殖可能な多能性幹細胞からインスリン産生細胞を作製する再生医療アプローチが近年急速に発展しています2)。米国ではES細胞由来膵島細胞製剤による治験で、多くの症例でインスリン離脱と血糖指標の改善が達成されました3)。中国からは、自家iPS細胞を用いた症例報告があり、移植後短期間でのインスリン離脱が示されています4)。自家iPS細胞は拒絶の懸念が少ない一方、症例ごとの製造が必要でコストと時間の制約があるため、後述のiPS細胞ストックを用いた同種移植片の確保も進められています。なお、同種iPS戦略では免疫抑制剤の併用が前提ですが、多くの患者に迅速に適用できる利点があります。さらにHLAやPD-L1をノックアウトした“免疫ステルス”膵島細胞の開発も進行中です。

国内で進む膵島細胞シート療法
日本でも幹細胞由来膵島補充療法の研究が加速しています。京都大学医学部附属病院では、2025年1月から同大学iPS細胞研究財団のiPS細胞ストックから作成された高純度な膵島細胞シート製剤OZTx-410(オリヅルセラピューティクス株式会社提供)を、適応を満たす1型糖尿病をもつ人への移植を開始しており、まずは安全性の確認を目的とし、腹部皮下を移植部位に選択することで万一の場合にシート摘出を容易にする安全策も講じられています5)

展望とメッセージ
膵β細胞補充療法の進歩により、インスリン注射に頼らない生活の実現は確実に近づいています。β細胞を補充あるいは再生・増殖させる治療が確立すれば、将来的には「糖尿病」という疾患概念そのものの克服も期待できます6)。こうした治療の進歩は医療面だけでなく患者さんの生活や社会にも大きな希望をもたらし、糖尿病に対する偏見の解消にもつながるでしょう。若い医師や研究者の皆さんもぜひ本分野に関心を持ち、未来の糖尿病克服に向けて挑戦してくださることを期待しています。

文献
1. Nakamura T, et al. J Diabetes Investig 11(2): 363-372, 2020.
2. Fujikura J, et al. J Diabet Investig 16(3): 384-388, 2025.
3. Trevor WR, et al. N Engl J Med 393(9): 858-868, 2025.
4. Shusen Wang, et al. Cell 187(22): 6152-6164.e18, 2024.
5. https://jrct.mhlw.go.jp/latest-detail/jRCT2053240146
6. Sakurai T. J Diabetes Investig. 2023 Jan;14(1): 15-18.

矢部大介(京都大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌・栄養内科学)

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