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教育・研究

両側副腎病変に対する新しい手術療法:片側または部分副腎摘出術の可能性

最終更新日:2019年2月25日

両側副腎病変に対する新しい手術療法:片側または部分副腎摘出術の可能性

 両側副腎病変によるCushing症候群には、原発性両側性大結節性副腎過形成(primary bilateral macronodular adrenal hyperplasia: PBMAH)と原発性色素性結節状副腎皮質病変(primary pigmented nodular adrenocortical disease:PPNAD)の2つのサブタイプがある。コルチゾール過剰は、糖尿病、高血圧、脂質異常症、免疫力低下などをきたして生命予後が明らかに不良であり、原則としてコルチゾールの正常化を目指して両側副腎摘出術の適応とされてきた。
PPNADは、ACTH非依存性Cushing症候群の約1%未満に認めるまれな両側副腎病変によるサブタイプである。PPNADは小児期~思春期に診断されることが多くカーニー複合として診断されることが多い。
ベルギーのKyrilliらのグループが、PPNADによるCushing症候群の一卵性双生児例に対して、両側ではなく片側副腎摘出術を行い、1人は3年後、他方は18ヶ月の時点で疾患のコントロールが良好で副腎不全も起こさずに経過観察できた症例をJournal of the Endocrine Society誌に報告した。両側副腎病変によるCushing症候群に対して片側副腎摘出術を考慮する場合、疾患の再燃とどちらの副腎を摘出するべきかの2つのポイントがある。

PBMAHは両側副腎に大結節が多発し、Subclinical Cushing症候群やovert Cushing症候群を呈する。PBMAHも以前は原則として両側副腎摘出術の適応とされてきたが、近年では片側副腎摘出術によりコルチゾール過剰のコントロールが良好となる報告が増えている。PBMAHは副腎重量に依存してコルチゾール産生量が規定されるために、通常は大きさが大きい方の副腎摘出が行われる場合が多い。
一方、PPNADは本論文の症例も含めてCT, MRIでは両側副腎は正常のことが多く、どちらを摘出するかは画像検査からは難しい。本報告では、1例目は131I-iodomethyl norcholesterol scintigraphyにて左副腎の集積が右副腎よりわずかに強かったため、左副腎摘出術が行われた。2例は、約2年遅れてCushing徴候が発症し、画像検査で左副腎が右副腎よりわずかに大きかったために、左副腎摘出術が行われた。
また、本報告では一卵性双生児の双方いずれにおいてもPRKAR1A遺伝子の同じ胚細胞変異(c.709-7_709-2 del TTTTTA)を認めた。現在までに、PPNADに対して片側または部分副腎摘出術を行った報告は24症例の報告がある。それらの中で、経過中に疾患が再燃して2度目の副腎摘出術が必要になった症例と本例の遺伝子変異は異なっているが、今後症例数を増やして遺伝子型と片側副腎摘出術の適応の関連も検討する必要がある。

編集者のコメント:
ホルモン過剰産生を是正するためには病変を全摘するのが原則とされてきた。一方、できるだけ正常副腎を温存した手術は、その後の副腎不全を防ぐために有意義である。本論文は両側性Cushing症候群に対する手術療法をとりあげているが、原発性アルドステロン症はCushing症候群と比べてはるかに両側病変が多く、副腎静脈サンプリングにより片側病変と両側病変の鑑別が必要となる。現在、ガイドラインでは、片側病変に対しては片側副腎摘出術、両側病変に対してはMR拮抗薬による薬物治療が推奨されているが、ホルモン産生量によってはどちらのサブタイプに対しても副腎部分摘出術も有効である可能性はあり、今後の検討課題である。
本論文で新しく示された知見:
ACTH非依存性Cushing症候群を呈するPPNADに対して、片側副腎摘出術はコルチゾール過剰が軽症な症例では可能な治療法であり、両側副腎摘出術に伴うQOLの低下や副腎不全の危険もない。

“This report of twin patients who did benefit from a safe and conservative surgical procedure can be added to the existing literature on clinical experience showing that a case-by-case personalized approach with close follow-up can result in a favorable clinical outcome after unilateral adrenalectomy for PPNAD without the risk and the inconvenience of subsequent adrenal insufficiency, which alters quality of life.”

Kyrilli A et al.  Unilateral adrenalectomy could be a valid option for primary nodular adrenal disease: Evidence from twins.  J Endocr Soc 3: 129-134, 2019

柴田洋孝(大分大学医学部内分泌代謝・膠原病・腎臓内科学講座)

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