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後天性視床下部性肥満に対するセトメラノチド酢酸塩注射剤の安全・適正使用に関するステートメント

最終更新日:2026年10月21日NEW

後天性視床下部性肥満に対するセトメラノチド酢酸塩注射剤の
安全・適正使用に関するステートメント

日本内分泌学会 日本小児内分泌学会 日本間脳下垂体腫瘍学会
発出日 2026年10月19日
 

後天性視床下部性肥満は、視床下部の器質的病変ないしは物理的損傷により生じ、通常の食事・運動療法のみでは十分な治療効果が得られにくい疾患である。後天性視床下部性肥満では若年期から糖・脂質代謝異常をはじめとする心血管疾患のリスクの増加、あるいは生活の質(QOL)の低下を伴いうることから、適切な診断と継続的な治療を必要とする[1]。
セトメラノチド酢酸塩注射剤(販売名:イムシブリー皮下注10mg、以下「本剤」)の本邦における発売を受け、日本内分泌学会、日本小児内分泌学会及び日本間脳下垂体腫瘍学会は、本剤の安全かつ適正な使用を推進するため、以下の見解を示す。本剤の使用にあたっては、最新の電子添文[2]、および日本内分泌学会及び厚生労働省間脳下垂体機能障害に関する調査研究班が合同で作成した「視床下部性肥満の診断と治療の手引き」(以下「診断と治療の手引き」[3])の内容を確認し、個々の患者における治療上の有益性と危険性を十分に検討すること。
 

1 診断の確立と適応の厳守
後天性視床下部性肥満の診断にあたっては、診断と治療の手引き[3]に準拠し、視床下部障害の原因、現在の体重と体重増加の経過、画像所見、内分泌学的所見や視床下部障害を示唆する臨床症状や徴候、および鑑別すべき疾患の除外、を確認すること。本剤は、同手引きの「確実例」又は「ほぼ確実例」に該当する患者に使用が検討される[3]。「疑い例」については、診断根拠が十分でない状態で本剤を導入すべきではない。後天性視床下部性肥満は希少疾患であり、肥満者・肥満症患者における頻度は一般に高くは無いことから、診断に際しては症状及び所見を十分に吟味し、専門医による評価が行われることが推奨される。
本剤の効能又は効果は「後天性視床下部性肥満」である[2]。本疾患に該当しない、肥満者や原発性肥満症患者、他の二次性肥満の患者に使用してはならない。とりわけ、本疾患ではない者に対して、美容・痩身を目的として使用してはならない。なお「視床下部性肥満」は、「先天性」、「後天性」のいずれも、難病法に基づく指定難病、児童福祉法に基づく小児慢性特定疾病でないことに注意すること。
 

2 治療の必要性と医療資源を踏まえた患者選択
本剤の導入は、現在の体重と体重増加の経過、過食等の日常生活への影響、関連する健康障害の程度、QOL、食事療法、運動療法、行動療法等の治療への反応と、自己注射の負担や薬価を踏まえた経済的負担等を総合的に判断し行う。医療費および必要な医療資源も考慮し、治療の必要性が高く、臨床的利益が期待される患者に優先して使用することが望ましい。本剤の導入にあたっては患者・家族・介護者等と本剤使用のメリットとデメリットや治療目標についてよく話し合い認識を共有することが重要である。
後天性視床下部性肥満の患者の多くは、既に原疾患の治療・管理やホルモン補充療法等を受けていると想定されることから、内分泌内科医、小児内分泌科医、脳神経外科医等の緊密な連携により、これらの治療が適切に継続され、また最適化されることが本剤使用の前提となる。
 

3 治療効果の評価と継続の判断
日本人を含む国際共同第Ⅲ相TRANSCEND試験では、ベースラインから用量漸増後の治療期52週時までのBody Mass Index(BMI)変化率が主要評価項目とされた[4]。実臨床でも、投与開始前のBMIを記録し、BMI減少率を治療効果判定の中心的な指標とすることを推奨する。BMI減少率は、[投与開始前BMI-評価時BMI]/投与開始前BMI×100(%)として算出する。小児では、身長の伸びを伴うため、身長・体重の推移と年齢・性別に応じたBMI指標も併せて評価する。
同試験の副次評価項目及び関連する探索的解析等では、QOLや心血管代謝リスクに関連する指標の改善も報告されている[4]。BMIの変化に加えて、糖・脂質代謝、血圧、過食・空腹感、身体活動及びQOLの変化[5]にも注意を払い、患者にとっての治療上の利益を総合的に評価する。
有効性、忍容性及び治療負担は定期的に評価し、十分な利益が得られない場合や患者にとっての利益が不利益を上回らない場合には診断精度の再確認、投与状況および併存疾患の再検討を行った上で、継続の適否を判断する[2]。
 

4 副作用の説明と安全管理
TRANSCEND試験で20%以上に認められた主な副作用として、皮膚色素過剰、悪心、嘔吐および注射部位反応がある[4]。投与開始前から、これらが生じる可能性と発現時の対応について、予め患者や家族に十分に説明することが重要である。発現時は重症度及び患者の負担を評価し、電子添文に従って増量の延期、減量、休薬又は中止を検討する[2]。投与開始前および投与中、中止後早期には定期的に皮膚を観察し、色素沈着や母斑等の変化を確認する。また持続勃起症にも留意する。これらの副作用や他の副作用を認める場合は電子添文に従い対処する[2]。
中枢性尿崩症を伴う患者では水分出納及び血清ナトリウム値に、副腎機能不全を伴う患者では嘔吐等に伴うホルモン製剤の内服困難や副腎クリーゼに注意し、必要な治療調整を行う[3]。腎機能、年齢・体重その他の患者背景に応じた投与方法及び自己注射の指導についても、電子添文を遵守する[2]。
視床下部障害をもつ患者では、渇中枢、体温中枢、リズム中枢などの障害により、適切なタイミングでの適切な飲水行動や体温の維持・調節が困難であったり、睡眠障害を併発したりすることがある。本剤の使用にあたっては、BMIや肥満と関連する健康障害、ホルモン分泌低下症に加えて視床下部障害に伴う症状や徴候の変化にも留意する必要がある。
 

5 臨床試験の対象とエビデンスの限界
臨床試験で検討されていない、または検討が限られる患者集団では、有効性および安全性の不確実性を踏まえて使用の適否を慎重に判断する。試験の組入れ・除外基準は電子添文上の禁忌と同義ではないが、試験結果をそのまま外挿できるとは限らないことには注意を要する。

(1)年齢
TRANSCEND試験には4歳未満の患者は含まれておらず、有効性及び安全性は確立していない[4]。本邦の承認用法・用量は成人および4歳以上の小児を対象としている[3]。しかし、日本国内の18歳未満の参加者は1例のみであったため、日本人の小児患者への投与においては、海外の成績も踏まえつつ、発売後も有効性および安全性を慎重に観察する必要がある。

(2)BMI・肥満度
同試験の肥満に関する組入れ基準は、「18歳以上ではBMI 30 kg/m²以上」、「18歳未満では年齢・性別に基づくBMIの95パーセンタイル以上」であった[6]。よって成人においてBMI 25 kg/m²以上30 kg/m²未満、また小児において肥満度に基づく各年齢の肥満の判定基準を満たし、診断と治療の手引きに基づいて後天性視床下部性肥満と診断される患者に対する有効性および安全性は、同試験では検証されていない。

(3)視床下部障害からの経過時間
同試験では、頭蓋咽頭腫その他の視床下部領域に影響を及ぼす脳病変と診断され、スクリーニングの「6ヶ月以上前に視床下部に及ぶ外科手術、化学療法又は放射線療法を受けた患者」、「6ヶ月以上前に手術・放射線療法の適応とならない視床下部損傷を受けた記録のある患者」が対象とされた[6]。したがって、これらの治療又は損傷から6ヶ月未満の患者における有効性および安全性は確立していない。6ヶ月未満の患者においては、治療の意義と危険性の両面から慎重に検討する必要がある。とりわけ下垂体前葉ホルモンの分泌低下症やバソプレシン分泌低下症を認める症例においては、これらに対するホルモン補充療法が安定的に実施できていることを確認した上で後天性視床下部性肥満の診断を行い、治療適応を決定する必要がある。
後天性視床下部性肥満では、視床下部障害の発症ないし診断から概ね1年間の経過で急速かつ顕著な体重増加を認める[3]。典型例においては1 年間あたり、成人で5%以上のBMI の増加、小児ではBMI 成長曲線上で1SD 以上の増加(肥満度では20% 以上の増加)を認める[3]。体重増加の身体的・心理的負担を考えれば、急速な体重増加を生じつつある症例に、早期から治療介入を行うことは一般的には望ましいことと考えられる。一方で、本剤をこのような早期(発症ないし治療から6ヶ月以上1年未満)に用いた場合と、1年以上経過した後に用いた場合の有効性や安全性の違いについては明確な情報が無い。そのため現時点では期待される利益と不利益に基づいて症例ごとに本剤の投与を開始する時期を判断する必要がある。

(4)その他の除外対象
同試験では、遺伝子異常による肥満またはプラダー・ウィリ症候群を含む遺伝性肥満症候群の患者や、過去2年以内に減量・代謝改善手術を受けた患者、悪性黒色腫の既往または家族歴を有する患者は除外されており、これらの患者における有効性および安全性は明らかでない[6]。なお、遺伝性肥満は後天性視床下部性肥満に該当せず、本邦における本剤の承認適応には含まれない[3]。
 

6 肥満に対する食事療法、運動療法、行動療法、外科療法の実施について
本剤の使用に当たって、電子添文上、前提として食事療法、運動療法、行動療法が実施されていることは必須要件とはなっていない[2]。しかし本剤の使用に伴う負担や副作用のリスクに鑑み、また本剤の投与とその継続を確実なものとし、効果を最大化するためにも、ライフスタイルについての一定の助言や指導がなされることが望まれる。本剤の使用と減量・代謝改善手術のメリットやデメリット、併用の意義などについては明らかではなく、今後の課題である。
 

7 他の肥満症治療薬の使用と併用療法の位置付け
GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬等の薬剤については、後天性視床下部性肥満が電子添文上の禁忌として明記されていないため、後天性視床下部性肥満の診断名のみを理由として使用が一律に禁止されているとはいえない。しかし禁忌の記載がないことや、実臨床における少数の使用経験が報告されていることは、本疾患への有効性・安全性が確認されていることを意味しない。海外では、観察研究[7]や少数例の前向き比較試験[8]においてセマグルチドなどのGLP-1受容体作動薬による体重減少の報告がある。しかし、GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬等の肥満症治療薬としての承認取得のための試験においては、後天性視床下部性肥満を含む二次性肥満は一般に除外されており、本疾患を有する日本人患者における有効性および安全性が確立しているとはいえない。治療の必要性、期待される利益、消化器症状を含む副作用および治療負担を考慮し、慎重に判断することが求められる。特にこれらの薬剤を使用中に副作用としての消化器症状が出現した場合には、とりわけ水・電解質異常や補充ホルモンの吸収不良による副腎クリーゼへの十分な配慮と予防が必要である。
TRANSCEND試験には少数例ながらGLP-1受容体作動薬の使用歴のある患者や使用中の患者が含まれていた[4]。しかし本剤とGLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬等の併用についての有効性や安全性についての十分な検証はなされていない。
 

8 長期的な観察と製造販売後の情報収集
本剤の継続使用による長期予後および長期安全性については、なお検討を要する。製造販売後の特定使用成績調査を含む臨床情報の集積に協力し、その結果を注視する必要がある。特に、投与経験が限られる日本人患者や小児患者、臨床試験の対象者と異なる背景を有する患者では、継続的な観察と情報の蓄積が重要である。

 

3学会は、発売後に得られる有効性・安全性情報や新たな研究成果を踏まえ、必要に応じて本ステートメントを見直す。

日本内分泌学会
大月道夫、有馬 寛、田中智洋、高木博史、竹田勝志、小川佳宏

日本小児内分泌学会
水野晴夫、磯島 豪

日本間脳下垂体腫瘍学会
西岡 宏

 

利益相反開示

大月道夫:講演料(帝人ファーマ株式会社、JCRファーマ株式会社)

有馬 寛:講演料(ノボ ノルディスクファーマ株式会社、日本イーライリリー株式会社、Rhythm Pharmaceuticals Japan)

田中智洋:講演料(日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社、ノボ ノルディスクファーマ株式会社、日本イーライリリー株式会社、田辺ファーマ株式会社/田辺三菱製薬株式会社、ノバルティスファーマ株式会社、MSD 株式会社、興和株式会社、サノフィ株式会社、大塚製薬株式会社、住友ファーマ株式会社)、治験・受託研究・共同研究費(日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社、日本イーライリリー株式会社、Rhythm Pharmaceuticals Japan)

高木博史:なし

竹田勝志:なし

小川佳宏:講演料(ノボ・ノルディスクファーマ)、共同研究費(田辺ファーマ)、寄附金(国家公務員共済組合連合会 佐世保共済病院)

水野晴夫:なし

磯島 豪:講演料(JCRファーマ株式会社、ノボ ノルディスクファーマ株式会社、Rhythm Pharmaceuticals Japan)、治験・受託研究・共同研究費(Rhythm Pharmaceuticals Japan)

西岡 宏:治験・受託研究・共同研究費(三和化学研究所、Rhythm Pharmaceuticals Japan)

 

参考資料
1 Müller HL et al. Diagnostic criteria for acquired hypothalamic obesity – international expert guidance document. Endocr J. 2026; 73: 341-353. 10.1507/endocrj.EJ25-0408
2 イムシブリー皮下注10mg 電子添文 2026年8月作成 第1版。https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/850596_24994B0A1022_1_01
3 視床下部性肥満の診断と治療の手引き。日本内分泌学会雑誌 2026;102(S.GL2):1–10。https://www.jstage.jst.go.jp/article/endocrine/102/S.GL2/102_1/_pdf/-char/ja
4 Miller JL, et al. Setmelanotide for the Treatment of Acquired Hypothalamic Obesity. N Engl J Med. 2026. doi:10.1056/NEJMoa2512275. https://doi.org/10.1056/NEJMoa2512275
5 TRANSCENDにおけるQOLの質的研究。
https://www.frontiersin.org/journals/behavioral-neuroscience/articles/10.3389/fnbeh.2026.1830070/full
6 TRANSCEND試験登録 NCT05774756。
https://clinicaltrials.gov/study/NCT05774756
7 Lambert F, et al. Effectiveness and safety of GLP-1 receptor agonists in craniopharyngioma patients with obesity: A multicentre real-world study. Diabetes Obes Metab. 2026 Jan;28(1):443-451. doi: 10.1111/dom.70216.
8 Wang X, et al. The Efficacy of Semaglutide on Hypothalamic Obesity Caused by Craniopharyngioma Surgery. Clin Endocrinol (Oxf). 2025 Sep;103(3):359-365. doi: 10.1111/cen.15262.

 

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