「全身性脂肪萎縮症診断における血中レプチン検査の運用指針」発表にあたって
血中レプチン濃度は、体脂肪率、体脂肪量を定量的に推定できることから、全身性脂肪萎縮症の診断補助手段として全身MRIT1強調画像検査と並び有用であるとされてきた検査です。
この度、全身性脂肪萎縮症の診断補助としてELISA法による血中レプチン検査キットが体外診断用医薬品として製造販売承認されました。今後、保険収載とともに臨床導入されることが期待されます。そこで血中レプチン検査を正しく運用してもらうべく、当学会にて「全身性脂肪萎縮症診断における血中レプチン検査の運用指針」並びに「全身性脂肪萎縮症診断における血中レプチン検査のフローチャート」を作成しました。これらが、臨床現場で役立つ事を期待します。
全身性脂肪萎縮症診断における血中レプチン検査の運用指針
作成日 令和3年5月18日
日本内分泌学会
1.検査
酵素免疫測定(ELISA)法による血中(血清)レプチンの定量測定
2.対象患者
代謝異常の発症前から脂肪の萎縮があり、脂肪萎縮とともに食欲が亢進しインスリン抵抗性*及び糖脂質代謝異常(症)**が認められる場合には、脂肪萎縮症候群の可能性を考慮し検査を実施する。
*インスリン抵抗性は、以下を満たす場合
HOMA-IR(空腹時血糖値mg/dL×空腹時インスリン値µU/mL/405)≧2.5
**糖脂質代謝異常(症)は、下記の1~4(日本糖尿病学会の糖尿病診断基準)のいずれかが確認されたうえで、かつ5(メタボリックシンドローム診断基準検討委員会.メタボリックシンドロームの定義と診断基準)を満たす場合とする。
1.早朝空腹時血糖値126mg/dL以上
2.75gOGTTで2時間値200mg/dL以上
3.随時血糖値200mg /dL以上
4.HbA1c 6.5%以上
5.血中中性脂肪値150mg /dL以上
3.検査の目的・位置付け
脂肪萎縮症の診断は、日本内分泌学会が刊行した「脂肪萎縮症診療ガイドライン」(日本内分泌学会雑誌Vol. 94 Suppl. September 2018)の脂肪萎縮症診断の手順を参考に行うが、 脂肪萎縮の診断補助手段として全身MRI T1強調画像検査と血中レプチン濃度測定が有用であるとされている。脂肪萎縮症でみられる代謝異常の主な原因はレプチン作用不足であることから、血中レプチン濃度測定はその程度を直接評価することとなり、脂肪萎縮症の治療薬であるレプチン補充治療の適応の有無を判断する定量的診断法となる。
4.検査のタイミング・頻度
医師の問診と身体診察による診断から全身性脂肪萎縮症が強く疑われる場合に診断目的で本検査を1回のみ実施する。
5.結果の解釈
全身性脂肪萎縮症と他疾患との識別のための判定値(カットオフ値)は、男性:0.6 ng/mL、女性:1.9 ng/mLである。判定値未満の場合、全身性脂肪萎縮症を疑う。ただし、神経性食思不振症や飢餓状態であっても体脂肪量の減少を反映してレプチン濃度は低値を示す。更には、レプチン遺伝子異常によりレプチンが合成できない場合もレプチン濃度は検出できないレベルの低値を示すが、高度の肥満を示す。それゆえ、血中のレプチン濃度のみから、全身性脂肪萎縮症を診断することはできない。