日本内分泌学会

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橋本病(慢性甲状腺炎)

最終更新日:2019年11月18日

「橋本病(慢性甲状腺炎)」とはどのような病気ですか

甲状腺ホルモンは、心臓や肝臓、腎臓、脳など全身の臓器に作用して代謝を盛んにするなど、大切な作用を持つホルモンです。橋本病(慢性甲状腺炎)は、この甲状腺ホルモンが少なくなる病気(甲状腺機能低下症)の代表的な疾患です。

「橋本病(慢性甲状腺炎)」の患者さんはどのくらいいるのですか

橋本病(慢性甲状腺炎)は非常に頻度の高い病気で、成人女性の10人に1人、成人男性の40人に1人にみられます。ただし、橋本病だからといって、全員の甲状腺ホルモンが少なくなるわけではなく、橋本病のうち甲状腺機能低下症になるのは4~5人に1人未満です。大部分の人では甲状腺ホルモンは正常に保たれています。女性に多く、男女比は1:20~30くらいです。特に30~40代の女性に発症することが多く、幼児や学童はまれです。

「橋本病(慢性甲状腺炎)」の原因はわかっているのですか

橋本病(慢性甲状腺炎)は自己免疫疾患の一つです。自己免疫疾患とは、細菌やウィルスなどから体を守るための免疫が、自分の臓器・細胞を標的にしてしまうことで起きる病気の総称です。橋本病では、免疫の異常によって甲状腺に慢性的に炎症が生じていることから、慢性甲状腺炎とも呼ばれます。この慢性炎症によって甲状腺組織が少しずつ壊され、甲状腺ホルモンが作られにくくなると、甲状腺機能低下症が生じます。バセドウ病と同様に、なぜ免疫の異常が生じるかはわかっていません。橋本病を持っている人が、強いストレスや妊娠・出産、ヨード過剰摂取(海藻類、薬剤、造影剤など)等をきっかけとして甲状腺機能低下症を発症し、橋本病が明らかになるのではないかと考えられています。

「橋本病(慢性甲状腺炎)」ではどのような症状がおきますか

甲状腺が腫れてきて、くびの圧迫感や違和感が生じることがあります。甲状腺機能低下症になると、全身の代謝が低下することによって、無気力、疲れやすさ、全身のむくみ、寒がり、体重増加、便秘、かすれ声などが生じます。女性では月経過多になることがあります。うつ病や認知症と間違われることもあります。血液検査では、コレステロール高値や肝機能異常を認めることがあります。

時に、甲状腺ろ胞が破壊されて甲状腺ホルモンが血中に流出して、一時的に甲状腺ホルモンが過剰となり、「バセドウ病」と紛らわしい症状がでることがあります。通常は甲状腺の痛みはなく、「無痛性甲状腺炎」といい、3か月以内でおさまります。

「橋本病(慢性甲状腺炎)」ではどのような治療をおこないますか

甲状腺機能が正常の橋本病では、原則的に治療は必要ありません。甲状腺機能低下症がある場合は、合成T4製剤の内服を行います。ヨード過剰が疑われる場合は、ヨード制限も行います。潜在性甲状腺機能低下症の場合は、妊娠中あるいは妊娠希望の女性では速やかに甲状腺ホルモン補充を開始します。甲状腺刺激ホルモン(TSH)が10µU/ml以上や、高コレステロール血症を伴う場合などでは、合成T4製剤の内服を検討します。

「橋本病(慢性甲状腺炎)」はどのような経過をたどるのですか

一旦、甲状腺機能低下症になると、生涯、甲状腺ホルモンの補充が必要になることが多いです。甲状腺が急に大きくなった場合は、甲状腺機能低下の悪化のほか、まれですがリンパ腫の可能性がありますので担当医に相談をしてください。

妊娠希望のある場合や妊娠中の「橋本病(慢性甲状腺炎)」はどのような注意が必要ですか

甲状腺自己抗体が陽性の場合、TSHが2.5µU/mlをこえる程度の軽い潜在性甲状腺機能低下症であっても、流早産や妊娠高血圧症候群のリスクが高く、治療によりそのリスクを改善できることが明らかになっています。橋本病(慢性甲状腺炎)では、妊娠を希望する場合には、TSH2.5µU/ml以下を目標に、合成T4製剤(チラーヂンS®、レボチロキシン®)の内服を調整します。妊娠すると妊娠15週までに甲状腺ホルモンの必要量が約1.3~1.5倍に増えるので、妊娠がわかったら、甲状腺ホルモン量を20~30%増量するかすぐに主治医を受診するかはあらかじめ担当医と相談しておきましょう。妊娠初期は、4週毎に甲状腺機能のチェックを行い、妊娠30週前後で一度チェックを行います。妊娠中・後期はTSH3.0µU/ml(後期は3.5µU/mlでもよい)以下にコントロールするのが一般的です。分娩後は妊娠前の量に戻します。産後甲状腺炎チェックのために産後6~12週と産後6か月時に甲状腺機能をチェックしましょう。橋本病の場合、約6割のひとが産後無痛性甲状腺炎や甲状腺機能低下症を合併するといわれています。合成T4製剤を内服しながらの授乳は問題ありません。

「橋本病(慢性甲状腺炎)」は遺伝するのですか

橋本病になりやすい体質は遺伝しますが、上にあげたような何らかの誘因が加わって発病します。

「橋本病(慢性甲状腺炎)」は日常生活でどのような注意が必要ですか

倦怠感などの甲状腺機能低下症状が強い場合は、治療によって甲状腺ホルモンが正常になるまでは、あまり体に負担がかからないようにしましょう。神経質になる必要はありませんが、昆布やひじきなどのヨウ素を大量に含むような海藻類などを過剰に摂取することは避けましょう。

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