日本内分泌学会

English
医療関係の皆様へ
一般の皆様へ
専門医がいる施設はこちら

甲状腺機能低下症

最終更新日:2019年11月18日

「甲状腺機能低下症」とはどのような病気ですか

甲状腺はのどぼとけの下にある蝶(チョウ)が羽を広げた形をした臓器で、甲状腺ホルモンというホルモンを作っています。このホルモンは、血液の流れに乗って心臓や肝臓、腎臓、脳など体のいろいろな臓器に運ばれて、身体の新陳代謝を盛んにするなど大切な働きをしています。甲状腺ホルモンが少なすぎると、代謝が落ちた症状がでてきます。甲状腺ホルモンの産生は脳下垂体より分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)により調節されます。「甲状腺機能低下症」とは、血中の甲状腺ホルモン作用が必要よりも低下した状態です。甲状腺機能低下症による症状には、一般的に、無気力、疲労感、むくみ、寒がり、体重増加、動作緩慢、記憶力低下、便秘などがあります。軽度の甲状腺機能低下症では症状や所見に乏しいことも多いです。甲状腺機能低下症が強くなると、傾眠、意識障害をきたし、粘液水腫性昏睡と呼ばれます。また、甲状腺ホルモンは、代謝の調節以外にも、妊娠の成立や維持、子供の成長や発達に重要なホルモンなので、甲状腺機能低下症では、月経異常や不妊、流早産や妊娠高血圧症候群などと関連し、胎児や乳児あるいは小児期の成長や発達の遅れとも関連してきます。

「甲状腺機能低下症」の診断はどのように行いますか

前述のような症状と、甲状腺ホルモン値の低下と甲状腺刺激ホルモン(TSH)の値の増加によって診断します。

「甲状腺機能低下症」の原因にはどのようなものがありますか

甲状腺機能低下症の原因は、甲状腺でのホルモンの合成と分泌が低下した場合と、甲状腺ホルモンは十分に供給されているのに、標的組織の作用に異常があってホルモン作用が発揮されない場合があります。前者には、甲状腺自体に原因がある場合(原発性甲状腺機能低下症)と、甲状腺自体には異常はないのですが下垂体や視床下部の機能低下が原因の場合(中枢性甲状腺機能低下症)があります。後者は甲状腺ホルモン不応症と呼ばれ、甲状腺ホルモン受容体の先天異常が原因であることが多いです。

①原発性甲状腺機能低下症
原発性甲状腺機能低下症で最も多いのは慢性甲状腺炎(橋本病)です。橋本病は自己免疫疾患の一つで、主な症状は、甲状腺全体の腫れです。大きさはほとんどわからないものから非常に大きいものまでと様々ですが、首の前の部分の不快感や圧迫感を感じることもあります。抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体あるいは抗サイログロブリン抗体といった甲状腺に対する自己抗体が陽性となります。上記のような症状の他に、徐脈、心肥大、うつ状態、アキレス腱反射低下、筋力低下、脱毛(頭髪、眉毛)、皮膚乾燥、過多月経、低体温などが所見としてみとめられます。

また、昆布、ヨード卵、ヨウ素含有咳嗽液などヨウ素(ヨード)過剰摂取によっても甲状腺機能低下症を認めることがあります。他には、甲状腺の術後や放射性ヨード治療後、頭や首に生じた悪性腫瘍やリンパ腫に対する放射線外照射療法後、抗甲状腺薬による治療などの医学的治療後、先天性甲状腺機能低下症、ヨウ素欠乏などがあります。

甲状腺機能低下症は永続性である場合と一過性(一時的)である場合があります。一過性のものには、破壊性甲状腺炎の回復期、産後一過性甲状腺機能低下症、ヨウ素過剰摂取による甲状腺機能低下症(摂取制限をするだけで改善します)があります。


②中枢性甲状腺機能低下症
中枢性甲状腺機能低下症には、下垂体が原因の下垂体性甲状腺機能低下症と視床下部が原因の視床下部性甲状腺機能低下症があります。中枢性甲状腺機能低下症の原因は、脳腫瘍、脳外傷・やくも膜下出血後(十年以上して発症することも)、脳外科手術後、ラトケのう胞などの脳の病気や、下垂体前葉機能低下症の一症状として起こる場合、自己免疫性下垂体炎などです。


甲状腺ホルモン不応症 (難病情報センターへのリンク)

「甲状腺機能低下症」の治療はどのようにおこないますか

甲状腺機能低下症の治療には、甲状腺ホルモンである合成T4製剤(チラーヂン®S)の服用による治療を行います。鉄剤、亜鉛含有胃潰瘍薬、アルミニウム含有制酸剤などは甲状腺ホルモン製剤の吸収を阻害するので、内服間隔をあけることが必要です。また抗痙攣薬や抗結核薬と併用時には増量が必要な場合もあります。高齢者や、冠動脈疾患、不整脈のある患者さんでは慎重に内服を開始します。成人の合成T4製剤の内服維持量は50〜150µg/日です。内服治療は通常少量から開始し、維持量にまで徐々に増やします。維持量に達するのには数か月かかります。妊娠中は、甲状腺機能低下症を急速に改善する必要があるので、診断後は100〜150µg/日で開始します。

よくみられる原発性甲状腺機能低下症は、一過性の甲状腺機能低下症か永続性の甲状腺機能低下症かを見極めて治療を行う必要があります。出産後自己免疫性甲状腺症候群を含めた無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎の回復期の場合には様々な程度の甲状腺機能低下症を示すことがあります。そのような場合、一過性の軽度の甲状腺機能低下症は治療の必要がありません。また、症状があって治療を行う場合も、一過性の可能性のある場合は、薬の量を漸減中止してみます。

甲状腺ホルモン値が正常範囲内で、甲状腺刺激ホルモン(TSH)が高値の場合は、潜在性甲状腺機能低下症と言います。我が国での調査では健康な人の4~20%にみとめられるといわれており、特に女性に多く年齢が上がるにつれて増加します。治療すべきかどうかについては、未だに議論が多いですが、持続性にTSH値が高値の場合や、妊娠を前提とした場合や妊婦に対しては合成T4製剤の内服を開始します。

このページの先頭へ