日本内分泌学会

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下垂体偶発腫瘍

最終更新日:2019年11月9日

下垂体偶発腫瘍とはどのような病気ですか

下垂体は、読んで字のごとく「脳の底からぶら下がっている器官」で、実際には首から上の頭蓋骨のちょうど中央に存在し、多数のホルモンを分泌します。正常な下垂体は女性の小指の先ぐらいの大きさで重さは1g未満です。ここで言う下垂体偶発腫瘍とは腫瘍と無関係な理由で行われた画像検査により、偶然発見される下垂体部腫瘍を指します。

例を挙げると、めまい、慢性頭痛あるいは頭部外傷などで頭部CTやMRIの検査を受けることがあると思います。この際、検査の目的とは別に偶然下垂体部に腫瘍が見つかることがあります。また日本では脳ドックなど健診で頭部の検査を受けることもあり、これで下垂体部腫瘍が発見されることもあります。さらに、最近ではがん検診でPET検査(陽電子放射断層撮影)が行われることがあり、これによって下垂体偶発腫瘍が見つかることもあります。

この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

通常の脳のスクリーニング検査ではCTにおいて0.2%、またMRIでは0.16%に発見されたとの報告があります。ただ、前に述べたように下垂体は小さな臓器であることから、下垂体を中心に詳細な画像検査を行うと、さらに頻度は上がると思われます。

一方、日本人の剖検例(病理解剖)の検討では、MRIで検出可能な2mm以上の病変は6.1%に見つかったということです。

この病気はどのような人に多いのですか

この病気は特定の人に多いということはありません。

この病気の原因はわかっているのですか

下垂体偶発腫瘍は、のう胞性病変と実質性病変とに分かれます。前者の大部分はラトケ嚢胞といい、下垂体に袋状のものができ内部に液体がたまった良性のものです。一方後者の大部分は下垂体腺腫です。これは下垂体の一部の細胞が腫瘍化した良性の腫瘍です。

この病気は遺伝するのですか

下垂体偶発腫瘍の中で特に下垂体腺腫が疑われる場合、極めて稀ですが遺伝性のものが存在します。

この病気ではどのような症状がおきますか

この病気は、腫瘍と無関係な理由で行われた画像検査により発見されるため、無症状であることが多いです。しかしながら、腫瘍が大型で下垂体の上方に存在する視神経を圧迫している場合は、自覚症状がなくても眼科での検査で視力視野障害が見つかることがあります。

また、下垂体はホルモンを作る臓器のため、採血によるホルモン検査で下垂体ホルモンの分泌過剰あるいは低下が見つかることがあります。

この病気にはどのような治療法がありますか

下垂体部には多くの種類の腫瘍性病変が存在します。そのため下垂体偶発腫瘍が見つかった場合は、下垂体を中心にMRIを再度行う必要があります。可能であれば造影剤を用いると診断がより正確になります(図1,2)。同時にホルモン採血を行い下垂体ホルモンの分泌異常がないかを調べます。また腫瘍が視神経に接触している場合は、眼科で視力視野検査を行います。

以上の検査から、のう胞性病変が疑われ視力視野障害がない場合は原則として経過観察となります(図1)。

また下垂体腺腫が疑われる場合は、治療方針が分かれます。つまり下垂体からホルモンが過剰に分泌されている場合(これらを機能性腺腫とよびます。)は、そのホルモンの種類によって治療方針が異なります(先端巨大症、クッシング病、プロラクチノーマの項目を参照。)。また下垂体ホルモンが過剰に分泌されていない場合(これらを非機能性腺腫とよびます。)で腫瘍が小型で視神経から離れている場合は経過観察となります。しかし腫瘍が視神経に接触し、視力視野障害が認められる場合は手術療法が勧められます(図2)。

一方下垂体腺腫で視神経に接触しているものの、視力視野障害を認めないものについては、患者さんとよく相談の上、手術を行うこともあります。ただこの場合、年齢・合併症・全身状態などに配慮する必要があります。術式については、ほとんどの場合で経鼻的な手術が可能です。最近では内視鏡を用いた手術が主流です。

では、経過観察となった場合、どのようにすればいいのでしょうか?この場合、最初は半年後、以後1年に一回下垂体MRIとホルモン検査を行うといいでしょう。

最後に下垂体ホルモンの機能低下が見つかった場合は、腫瘍の大きさや種類にかかわらず、そのホルモンの補充療法を行います。ただ成長ホルモンの補充については慎重に行う必要があります。


図1:30歳代女性


A: めまいを主訴に頭部MRIを行い、偶然下垂体の腫大を認めた①。

B: 下垂体を中心に造影MRIを行い、のう胞性病変と診断した②。ラトケ嚢胞を疑い眼科で検査を行うも異常を認めず、経過観察中である。


図2:60歳代男性


A: 脳ドックを行い、下垂体の腫大を認めた①。

B: 下垂体を中心に造影MRIを行い、実質性病変(下垂体腺腫)と診断した②。自覚症状はなかったが、腫瘍が視神経を圧迫し、眼科で視野障害を指摘され内視鏡下経鼻的手術を行った。

この病気はどういう経過をたどるのですか

日本での全国調査では平均50.7ヶ月の間に、のう胞性病変の5.3%が、実質性病変の10%が増大したと報告されています。つまり下垂体腺腫などの実質性腫瘍の方が増大しやすいということになります。また下垂体卒中と言って腫瘍内部に出血などをきたし腫瘍が急激に大きくなることがあります。ある報告では、5年間で9.5%に下垂体卒中を認めたとしており注意が必要です。

最後に極めて稀ですが、下垂体偶発腫瘍の中に増大しやすい腫瘍が含まれていることがあります。そのため専門医のもとで、定期的な診察を受けることが重要です。

この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか
下垂体偶発腫瘍が見つかったからといって、特別神経質になることはありません。しかし腫瘍が増大することもあるので、専門医のもとで定期検査を受けることが必要でしょう。また腫瘍の増大による視力視野障害や頭痛、あるいは下垂体ホルモンの分泌低下による症状(全身倦怠感など)が出現したら注意が必要です。早めの受診をお勧めします。

 

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