神経性過食症とは
神経性過食症(bulimia nervosa:BN)は摂食障害の一つです。「むちゃ食い」と呼ばれる過食を繰り返すことが特徴で、「食べ始めると止められない」「自分ではコントロールできない」という感覚を伴い、短時間に大量の食べ物を食べます。一方で、体重が増えることへの強い不安から、過食後に自分で吐いたり、下剤を乱用したり、過度な運動や絶食を行ったりして体重をコントロールしようとします。神経性やせ症でも「むちゃ食い」や代償行動を認めることがあり、両者は経過の中で移行することもあるため、明確に区別できない場合があります。また近年では、過食はあるものの嘔吐などの代償行動を伴わない「むちゃ食い性障害(Binge Eating Disorder:BED)」も増えており、神経性過食症とは異なる摂食障害として注目されています。
この病気の患者さんはどのくらいいるのですか?
厚生労働省が病院を対象として1998年に実施した全国調査では、神経性過食症の年間有病率は人口10万人当たり5.1人(推計約6,500人)と報告されています。しかし、その後、日本全国を対象とした疫学調査はほとんど行われておらず、現在の患者数は明らかではありません。一方、海外では摂食障害全体の患者数は増加傾向にあり、日本でも新型コロナウイルス感染症流行後に摂食障害患者の増加が報告されています。また近年は、神経性過食症だけでなく、むちゃ食い性障害(BED)などの摂食障害が増えていることが知られています。
この病気はどのような人に多いのですか?
神経性過食症は若年女性に多く、神経性やせ症が中学生から高校生に多いのに対し、神経性過食症はやや年長の年代でみられやすいとされています。大学生、就業女性、主婦など、思春期後半から成人期の女性でみられることが多いとされていますが、最近のわが国における全国的な疫学データは限られています。
この病気の原因はわかっているのですか?
神経性過食症も、文化社会的要因、心理的要因、生物学的要因が複雑に相互に関連して発症すると考えられています。文化社会的要因や心理的要因は神経性やせ症と共通する部分が多いです。生物学的要因としては、遺伝的素因に加え、報酬処理や認知制御に関わる脳内神経回路の機能異常が示唆されています。とくに、食行動に関わる報酬系の反応性異常や、抑制制御ネットワークの機能低下が、過食や代償行動の反復に関与する可能性があると考えられています。
この病気は遺伝するのですか?
神経性過食症は単一の遺伝子で決まる病気ではありませんが、家族研究や双生児研究から遺伝的要因の関与が示唆されています。これまで発症に特異的な遺伝子は確立されていないものの、第10染色体上に関連領域が報告されており、複数の遺伝的素因が発症しやすさに関与すると考えられています。
この病気ではどのような症状がおきますか?
神経性過食症の主な症状は、過食、体重増加を防ぐための排出行為、肥満への強い恐怖、そして体重や体型によって自己評価が大きく左右されることです。排出行為には、自己誘発性嘔吐、下剤や利尿剤の乱用、過食後の絶食や過剰な運動などがあります。過食は、自分では食べることを止められない「むちゃ食い」の状態であり、その最中は他のことが考えられなくなるほど没頭し、一時的に苦痛やストレスから逃避する側面があります。過食後には強い自己嫌悪や罪悪感を抱き、肥満への恐怖から排出行為を行い、その後再び過食を繰り返すという悪循環に陥ることも少なくありません。身体的な合併症に加え、気分障害、不安障害、アルコール使用障害、パーソナリティ症などの精神疾患を併存することも多く、一部の患者さんでは窃盗などの問題行動がみられることもあり、病態がさらに複雑になることがあります。一方、むちゃ食い性障害では、神経性過食症のような排出行為を伴わないため、肥満を合併することが少なくありません。
この病気にはどのような治療法がありますか?
神経性過食症の患者さんは、自分が病気であることを自覚して受診する人も少なくありません。身体的な問題で入院が必要となることは比較的少なく、多くは外来で治療が行われます。しかし、治療を途中で中断したり、医療機関を転々としたりすることも少なくありません。そのため、患者さんの状態に寄り添いながら、医師や心理士、看護師などの治療チームと信頼関係を築き、根気強く治療を継続することが重要です。外来では、栄養・生活指導に加え、認知行動療法、支持的精神療法、対人関係療法、家族療法などの心理社会的治療が行われます。なかでも認知行動療法は最も有効性が確立した治療法とされています。薬物療法は患者さんの状態に応じて行われ、うつ病や不安症などの精神疾患を合併している場合には、それらに対する治療も併せて行われます。海外では、認知行動療法に加え、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)の一つであるフルオキセチンの有効性が示されていますが、日本では神経性過食症に対する保険適用はありません。
この病気はどういう経過をたどるのですか?
神経性過食症では、多くの場合、症状が改善したり悪化したりを繰り返します。治療を受けなくても一時的に症状が軽くなることがありますが、何らかのきっかけで再発することも少なくありません。また、双極性障害やうつ病などの気分障害、不安障害などの精神疾患を併存している場合には、症状が長引いたり、慢性化したりすることがあります。そのため、症状が落ち着いた後も継続して治療や経過観察を受けることが大切です。成長や生活環境の変化などに伴って回復する人もいますが、過食や排出行動などの症状が改善し、その状態を維持して社会生活に支障なく過ごせることが治療の目標です。神経性過食症は適切な治療によって回復が期待できますが、再発することも少なくないため、焦らず継続して治療に取り組むことが大切です。

