メタボリックシンドロームとは
内臓脂肪の過剰な蓄積があると、糖尿病、高血圧、脂質異常症の発症リスクが高まり、脳卒中や心筋梗塞などの動脈硬化性疾患が増加することが明らかになっています。内臓脂肪は単なる脂肪の貯蔵場所ではなく、さまざまな生理活性物質の分泌を介して、インスリン抵抗性や動脈硬化の進展に関与しています。このため、BMIによらず、内臓脂肪の過剰な蓄積があり、かつ高血糖、高血圧、脂質異常のうち2つ以上を併せもつ状態をメタボリックシンドロームと呼びます。これは、生活習慣病や動脈硬化性疾患の発症リスクが高い人を早期に見つけ、生活習慣改善につなげる目的で提唱されました。我が国の診断基準では、ウエスト周囲長(へそ周りの腹囲)が男性85cm以上、女性90cm以上であることを必須条件とし、脂質異常(中性脂肪150mg/dL以上、またはHDLコレステロール40mg/dL未満)、血圧高値(収縮期血圧130mmHg以上、または拡張期血圧85mmHg以上)、血糖高値(空腹時血糖110mg/dL以上)の3項目のうち2項目以上を満たす場合に診断されます。
この病気の患者さんはどのくらいいるのですか?
令和6年国民健康・栄養調査によると、20歳以上では、メタボリックシンドロームが強く疑われる人は男性26.0%(約4人に1人)、女性10.0%(約10人に1人)でした。また、予備群と考えられる人は男性25.3%、女性7.7%でした。これらは我が国の診断基準に基づく結果です。国や学会によっては、内臓脂肪蓄積を必須条件としない診断基準も用いられているため、海外のデータと単純に比較することはできません。
この病気はどのような人に多いのですか?
メタボリックシンドロームは、摂取エネルギーが消費エネルギーを長期間上回ることを背景として、内臓脂肪が過剰に蓄積することで発症します。しかし、その背景には食生活や運動習慣だけでなく、遺伝的な体質、加齢、睡眠不足、ストレス、社会環境、服用中の薬剤など、さまざまな要因が関与しており、単に「食べ過ぎ」や「運動不足」だけでは説明できない場合も少なくありません。また、男性ではテストステロン、女性ではエストロゲンの低下など、更年期に伴うホルモンの変化は内臓脂肪の蓄積を助長することが知られています。そのため、メタボリックシンドロームは中高年で多くみられ、加齢とともに診断される割合が高くなります。一方で、BMIが高くなくても内臓脂肪が多い場合には、メタボリックシンドロームを発症することがあります。
この病気の原因はわかっているのですか?
内臓脂肪の過剰な蓄積は、インスリンの働きを低下させ(インスリン抵抗性)、高インスリン血症や血糖値、血圧の上昇を引き起こします。また、内臓脂肪が分解されて生じる遊離脂肪酸が肝臓へ直接流入するため、脂質異常症が発症します。さらに、内臓脂肪では慢性的な炎症が生じるとともに、さまざまな生理活性物質(アディポサイトカイン)が分泌されています。内臓脂肪型肥満では、悪玉のアディポサイトカインが増加し、善玉のアディポサイトカインが減少することが知られており、これらがインスリン抵抗性を介して代謝異常を引き起こします。また、アディポサイトカインの異常は、代謝異常とは独立して動脈硬化の進展にも関与すると考えられています。
この病気は遺伝するのですか?
メタボリックシンドロームは、内臓脂肪型肥満と高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病が組み合わさって生じる病態です。肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症はいずれも遺伝的な体質が発症しやすさに影響することが知られています。一方で、メタボリックシンドロームは遺伝だけで決まる病気ではありません。食生活や身体活動、睡眠、ストレスなどの生活習慣や環境要因も発症に大きく関与しており、生活習慣の改善によって発症や進行を予防できる可能性があります。現在のところ、メタボリックシンドロームそのものを引き起こす特異的な原因遺伝子は明らかになっていません。
この病気ではどのような症状がおきますか?
メタボリックシンドロームでは、多くの場合、自覚症状はありません。これは、糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病や、将来の動脈硬化性疾患のリスクが高い状態を、症状が現れる前の段階で見つけることを目的とした疾患概念だからです。そのため、健康診断で初めて指摘されることも少なくありません。放置すると糖尿病、高血圧、脂質異常症が進行し、脳卒中や心筋梗塞などの動脈硬化性疾患を発症する危険性が高くなります。
この病気にはどのような治療法がありますか?
メタボリックシンドロームでは、内臓脂肪の蓄積が病態の根本原因となっているため、内臓脂肪を減らすことが治療の主な目的になります。内臓脂肪は皮下脂肪に比べて代謝活性が高く、減量によって比較的減少しやすいことから、少しの減量でも代謝異常の改善が期待できます。実際に、現在の体重から約3%減量するだけでも、血糖値、血圧、脂質などの改善が得られることが報告されています。治療の基本は、食事療法、運動療法および行動療法です。食事療法では適切なエネルギー摂取を心がけ、運動療法ではウォーキングなど無理なく続けられる有酸素運動を取り入れることが勧められます。行動療法は、減量後の体重維持や体重の再増加を防ぐためにも重要です。また、糖尿病、高血圧、脂質異常症などを合併している場合には、それぞれの病態に応じた薬物療法を併用することがあります。
この病気はどういう経過をたどるのですか?
メタボリックシンドロームでは、適切な治療や生活習慣の改善が行われない場合、糖尿病、脂質異常症、高血圧が進行し、脳卒中や心筋梗塞などの動脈硬化性疾患を発症する危険性が高くなります。これらの疾患は生命に関わることもあるため、早期からの対策が重要です。一方で、内臓脂肪を減らし、生活習慣を改善することで代謝異常が改善し、将来の動脈硬化性疾患のリスクを低減できることが知られています。

