日本内分泌学会

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偽アルドステロン症

最終更新日:2019年11月4日

偽アルドステロン症とは

偽性アルドステロン症とも表記されます。高血圧や低K血症など、原発性アルドステロン症と同様の臨床所見を呈するにもかかわらず、アルドステロン高値を示さない病態です。漢方薬の一成分である甘草に含まれるグリチルリチン酸の作用により、腎局所でのコルチゾール不活性化が阻害され、そこで過剰となったコルチゾールが腎局所でミネラルコルチコイド作用を呈する病態を示します。血中レニン、アルドステロンは、いずれも低値を示します。腎局所で、活性型のコルチゾール(F)が上昇し、不活性型のコルチゾン(E)が低下するため、尿中E/F比の低下が確認されます。局所でのコルチゾールの上昇であるため、通常、血中コルチゾールやACTHは正常範囲を示します。

この病気の患者さんはどのくらいいるのですか?

甘草を含む漢方薬を内服している患者は多数いますが、すべての内服者に発症することはなく、グリチルリチン酸の用量依存性に生じる病態であり、病気の実際の頻度について疫学的なデータはありません。

この病気の原因は何ですか?

グリチルリチン酸は、腎臓における11β水酸化ステロイド脱水素酵素2型(11βHSD2)の酵素活性を阻害します。11βHSD2は、腎局所においてコルチゾールをコルチゾンという不活性体に変える酵素であり、コルチゾールがミネラルコルチコイド受容体に作用することを妨げる役割を担っていますが、グリチルリチン酸によりこの酵素活性が阻害されると、腎局所でコルチゾールが上昇し、過度のミネラルコルチコイド活性を示すようになります。グリチルリチン酸は、漢方薬の他にも、一部の肝庇護薬にも含有されていますが、近年これらの肝庇護薬の使用頻度は減っています。

この病気は遺伝するのですか?

原因は外因性の要素を多く含んでいるため、一般に遺伝はしないと考えられます。11βHSD2の酵素活性が先天的に低下している疾患があり、これらはAME症候群(apparent mineralocorticoid excess syndrome)と呼ばれます。酵素活性の低下が軽度のものは、成人になってこの病気として診断される場合があります。

この病気ではどのような症状がおきますか?

原発性アルドステロン症と同様に、高血圧、低K血症を来たします。高度の低K血症を来たした場合は、不整脈や脱力症状を認めます。

この病気にはどのような治療法がありますか?

漢方薬などの薬剤が原因である場合は、該当薬剤の中止を試みます。中止が困難な場合、あるいはAME症候群の場合は、スピロノラクトンやエプレレノンといったアルドステロン拮抗薬が有効です。また、この病態はコルチゾールのようなミネラルコルチコイド活性ももつグルココルチコイドの上昇が病態の悪化をもたらしますので、グルココルチコイド薬が投与されている状況であればその減量、ストレス緩和による内因性コルチゾール上昇の回避なども、治療に有効です。

この病気はどのような経過をたどるのですか?

グリチルリチン酸の効果は、一般に数ヶ月持続すると考えられており、原因薬剤中止後も、しばらくの期間、高血圧や低K血症が続く場合がありますが、いずれ改善します。症状が軽症のものは、この病気と診断されず、原因薬剤が継続されていることもありますが、そのような症例では、過度のストレス等で高コルチゾール血症を呈した際に、重症の低K血症およびそれに伴う症状が見られることがあります。この病気も原発性アルドステロン症と同じくミネラルコルチコイド作用過剰を来たす病気ですが、非上皮性組織には11βHSD2発現はなく、上皮性組織においてのみミネラルコルチコイド作用過剰を来たすため、心血管リスクとの関連については明らかになっていません。

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