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原発性脂質異常症

最終更新日:2019年11月17日

原発性脂質異常症

質異常症は、血清総コレステロール値が220mg/dl以上あるいは血清トリグリセリド(中性脂肪)値150mg/dl以上と定義されます(1983年 厚生省原発性高脂血症調査研究班)。血中のコレステロールや中性脂肪はそのままの形では水に溶けにくくアポリポ蛋白という蛋白と結合して、リポ蛋白という粒子となって血流中に存在し、組織から組織へ運搬されます。脂質異常症はその成因により、血清脂質やリポ蛋白の代謝系に内在する異常(多くは、遺伝子異常)から発症している原発性脂質異常症と、他の外因や疾患に続発して起きている続発性脂質異常症に大別されます。

原発性脂質異常症とは

原発性脂質異常症は、血清脂質やリポ蛋白の代謝系に内在する異常(多くは、遺伝子異常)から発症している脂質異常症です。病態や遺伝子異常に基づき大きく5つの病型に分類されます(表1)。

 表1 原発性脂質異常症の分類

動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症治療ガイド2013年版
日本動脈硬化学会編 15頁引用


(以下は難病情報センターホームページ(2016年2月現在)原発性脂質異常症を引用しています)

この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

患者さんの頻度は病型によって異なりますが、

  • 家族性複合型高脂血症 約100人に1人
  • 家族性高コレステロール血症
    ヘテロ接合体(一方の親から異常遺伝子を受け継いだ患者さん) 約500人に1人
    ホモ接合体(両親から異常遺伝子を受け継いだ患者さん) 100万人に1人
  • 家族性Ⅲ型高脂血症 1万人に2~3人
  • 家族性リポ蛋白リパーゼ欠損症 100万人に1人

といわれています。
全ての病型を合わせても100人に1~2人程度と考えられます。

この病気はどのような人に多いのですか

病型により異なりますが、遺伝性素因の影響が大きい病型(家族性高コレステロール血症など)ほど若年から発症し、生活習慣などの環境因子の影響が大きい病型(家族性Ⅲ型高脂血症、家族性複合型高脂血症など)では成年以降に発症すると考えられます。性ホルモン等の影響で動脈硬化発症の危険は女性の方が低いといわれています。

この病気の原因はわかっているのですか

いずれの病型も遺伝性素因が関わっていることが多く、さらに環境因子、あるいは生活習慣が加わって発症するものもあります。

原発性高カイロミクロン(食物由来の、中性脂肪に富む軽くて大きなリポ蛋白)血症の遺伝的原因として、カイロミクロン中の中性脂肪を分解する酵素であるリポ蛋白リパーゼ(LPL)、あるいはこの分解反応に必要なアポリポ蛋白CⅡの先天的欠損症があります。また、原因不明の原発性Ⅴ型高脂血症もあります。

家族性高コレステロール血症は、体内におけるコレステロールの運搬に最も大切な低比重リポ蛋白(LDL)の受容体の欠損(ホモ接合体)あるいは半欠損(ヘテロ接合体)による疾患です。この病気の患者さんは血中のLDLを十分に利用できず、変性したLDLが血管組織に沈着した結果、若年から粥状動脈硬化をきたします。最近、LDL受容体遺伝子に異常のない家族性高コレステロール血症の患者さんの一部に、PCSK9というLDL受容体の分解に関わる遺伝子の異常が関与していることが報告されています。

家族性複合型高脂血症も、ある種の遺伝子異常を背景として環境因子によって修飾されて発症すると考えられます。特発性高コレステロール血症は前の二者を除いてなお原因不明の高コレステロール血症をいいます。

内因性高トリグリセリド血症のうち家族性Ⅳ型高脂血症は、肝臓で作られ中性脂肪に富む超低比重リポ蛋白(VLDL)の増加を呈する脂質異常症の一つですが、今のところ遺伝的な病因は明らかではありません。特発性高トリグリセリド血症は、遺伝的異常のない原因不明の疾患ですが、自己免疫などの関与、肝性リパーゼの何らかの異常などが関係していると推測されています。

家族性Ⅲ型高脂血症の遺伝的背景として、脂質の代謝に重要なアポリポ蛋白Eの異常のため、リポ蛋白がLDL受容体と結合しにくくなり、この状態に何らかの環境因子が加わって発症すると考えられています。

原発性高HDLコレステロール血症は高比重リポ蛋白(HDL)が増加する病気ですが、これにより粥状動脈硬化症を伴う家系があることが報告されています。原因として、コレステロールエステル転送蛋白や肝性リパーゼの異常が明らかになっています。

この病気は遺伝するのですか

遺伝的原因によって起こることが明らかにされているものと、そうでないものに分けられています。

家族性高コレステロール血症については研究が進んでおり、優性遺伝(両親から受け継いだ遺伝子の一方で異常があれば発症する)の形式をとることが明らかになっています。家族性リポ蛋白リパーゼ欠損症やアポリポ蛋白CⅡ欠損症は常染色体劣性遺伝(両親から受け継いだ遺伝子の両方に異常があると発症する)の形式をとります。

この病気ではどのような症状がおきますか

原発性高カイロミクロン血症では、血清トリグリセリド値が2,000mg/dlを超えると急性膵炎の発症リスクが高まります。小児期から膵炎による上腹部痛を繰り返します。また、肝臓や脾臓の腫大、皮膚には発疹性黄色腫という小さなピンクがかった黄色い皮疹ができます。

家族性高コレステロール血症ではアキレス腱の肥厚、結節性黄色腫、角膜輪などが特徴的で、高率に若年性粥状動脈硬化症をひきおこします。特に虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)の危険性が高くなります。

家族性複合型高脂血症では肥満や耐糖能異常、高尿酸血症を伴うことが多く、虚血性心疾患になる危険性が高くなります。

家族性Ⅲ型高脂血症では、虚血性心疾患や末梢動脈の動脈硬化を発症しやすいといわれています。稀に、手掌線状黄色腫が手のひらのしわに沿って黄色いすじのように認められることがあり、Ⅲ型高脂血症に特徴的です。

この病気にはどのような治療法がありますか

治療の原則は食事療法で、カロリー制限(標準体重kgあたり25ないし30キロカロリーを目安とします)、脂質制限、コレステロール制限(300mg/日)、不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の摂取比をあげる、などが大切です。また、肥満、喫煙、高血圧などほかの危険因子があればそれも治療することが合併症の予防につながります。運動療法も脂質異常症の改善に効果があります。

薬剤による治療としては高トリグリセリド血症にはフィブラート系薬(ベザトールSR、リピディル、トライコアなど)やEPA製剤(エパデール)、ニコチン酸製剤、高コレステロール血症にはHMG-CoA還元酵素阻害剤(メバロチン、リポバス、ローコール、リピトール、リバロ、クレストール)、コレスチミド(コレバイン)、エゼチミブ(ゼチーア)、プロブコール(シンレスタール、ロレルコ)などが有効です。

家族性高コレステロール血症ホモ接合体や重症の家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体の患者さんにはLDLアフェレーシスにより血清中のLDLを直接除去する方法が行われます。

この病気はどういう経過をたどるのですか

適切な治療を行い、特に虚血性心疾患の予防、治療を十分に行うことができれば経過はおおむね良好で、生命予後も良いと考えられています。

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