日本内分泌学会

English
医療関係の皆様へ
一般の皆様へ
専門医がいる施設はこちら

ステロイド糖尿病

最終更新日:2019年11月9日

ステロイド糖尿病

何らかの疾患の治療にあたり、ステロイド投与をされた際に発症する糖尿病を、ステロイド糖尿病といいます。ステロイドの投与は内服のみならず、外用薬、吸入薬、注射薬といった多種多様な形で存在しますので、患者本人がステロイド療法の経験がないと思っていても、知らぬ間に投与されて見逃されているケースもあります。特に皮膚の外用薬や、関節内注射は見逃されやすいケースです。

この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

1962年のわが国の疫学調査によれば、ステロイドを投与された疾患群628例のうち糖尿病発症は46例の7.3%と報告されています。ステロイド投与量に応じた発症頻度の増加もありますが、発症には投与期間との因果関係が強く、90日投与で66%に、300 日投与では94.2%に発症しています。

この病気はどのような人に多いのですか

ステロイド糖尿病発症の危険因子として、投与量と投与期間に伴うステロイド量の蓄積、高齢者、糖尿病の家族暦を有する者、肥満者といった2型糖尿病の発症リスクを持つもことが報告されており、そのような背景を有する患者ではステロイド投与前後の耐糖能の注意深い経過観察が必要です。患者自身はステロイド投与に気づいていない場合も多くありますので、詳細な病歴の聴取と同時に患者がかかりつけの医療機関に、直接担当医が確認することも重要です。

この病気の原因はわかっているのですか

ステロイド糖尿病の中心病態は、インスリン抵抗性と肝臓からの糖放出の亢進です。特に肝臓はステロイド糖尿病の中心病態となる臓器といえます。肝細胞において、インスリンはホスホエノ-ルピルビン酸カルボキシラーゼ(PEPCK)の遺伝子発現を抑制するのに対して、ステロイドはこれを上昇させることで糖新生を促進していることが知られています(図)。また、ステロイドは筋肉や脂肪組織といったインスリンに反応して糖を取り込む臓器において糖取り込みを抑制することが知られています。また、ステロイドは筋肉や脂肪組織の異化を亢進することで、肝臓に対して新たな糖新生の基質を送り込み、肝糖放出の促進を増長しています(図)。一方、ステロイドがインスリンの分泌能を抑制していることも知られている。

この病気は遺伝するのですか
通常は遺伝しません。しかし、2型糖尿病が遺伝すること、ステロイド糖尿病が2型糖尿病の家族歴を有する者でなりやすい事を考えると、ステロイド糖尿病患者を血縁に持つ者は、ステロイド糖尿病になりやすい体質を持っている可能性があります。

この病気ではどのような症状がおきますか

2型糖尿病同様初期には症状はありません。また、ステロイド糖尿病は早朝空腹時の血糖値が低いという特徴がありますので、いつも採血を早朝空腹時で行なっていると見逃される場合があります。HbA1c、食後の血糖値、尿糖を測定して、早期発見する必要があります。

この病気にはどのような治療法がありますか

<インスリン療法>
通常の2型糖尿病に準じてインスリン療法を行ないます。ステロイド糖尿病の特徴として、早朝空腹時の血糖が低く食後の血糖が高い事が知られています。よって、基礎インスリンよりも追加インスリンを中心にインスリン療法を行ないます。また、ステロイド内服は通常朝されますので、昼から夕方にかけてのインスリン抵抗性が増し、昼に打つインスリン量が多くなる傾向があります。

<経口血糖降下薬>
ステロイド糖尿病自体にはインスリン以外の抗糖尿病薬は基本的に保険適応が取れていません。しかし、2型糖尿病にステロイドが投与されて悪化したケースは投与可能で、2型糖尿病同様に薬剤の特性を使い分けて投与されます。最近、ステロイド糖尿病に対するインクレチン関連薬(DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬)の有効性が注目されています。

この病気はどういう経過をたどるのですか

他の糖尿病同様、良好な血糖コントロールが得られれば問題ありませんが、血糖コントロールが不十分ですと他の糖尿病同様の合併症が出現します。早期であれば、ステロイド投与の中によりステロイド糖尿病も寛解するケースもありますが、長期の場合や血糖を放置した例では、ステロイド中止後も糖尿病が残存する場合があります。

このページの先頭へ