日本内分泌学会

English
医療関係の皆様へ
一般の皆様へ
専門医がいる施設はこちら

下垂体癌

最終更新日:2019年11月9日

下垂体癌とはどのような病気ですか?

下垂体腺腫は脳下垂体前葉に発生する良性腫瘍であり、大半の症例ではゆっくりと増大します。手術で全摘出すれば治癒する例も多く見られます。ホルモンを産生するタイプの下垂体腺腫(機能性腺腫)ではホルモン過剰症状を治療するために薬物療法などが必要となることもありますが、腫瘍自体が生命に関わることはほとんどありません。ところが下垂体腺腫の中にはまれに、短期間で急速に増大して、手術で摘出しても何度も再発を繰り返し、薬物治療への反応も不良という、悪性腫瘍のような活動性を示すものが現れます。そのような増殖性、進行性の強い下垂体腺腫に対して、何年にもわたって複数回の手術や薬物療法、放射線療法などを繰り返すうちに悪性度が高くなっていき、最終的に脳や脊髄の周辺へ散らばるように広がったり(播種)、脳から離れた場所に出現したり(転移)する例がごくまれに存在することが知られています。そのような播種や転移を生じた悪性の下垂体腺腫が下垂体癌と呼ばれます。

この病気の患者さんはどのくらいいますか?

統計上、下垂体腺腫の発生率は人口10万人あたり年間2-3人と考えられます。悪性下垂体腺腫の正確な発生率は不明ですが、下垂体腺腫の0.1~0.2%程度が下垂体癌になると報告されています。2012年に日本間脳下垂体腫瘍学会が会員の医師を対象として全国調査をおこない、今までに経験した下垂体癌についてアンケートを取ったところ、35症例の報告がありました。もちろんこれが国内で発生した下垂体癌の全てではありませんが、国内で新たに下垂体癌と診断される症例は年間に数例であろうと推定されます。

この病気の原因は何ですか?

一般的な下垂体腺腫が下垂体癌へ変化していく原因は分かっていません。下垂体癌へ悪性転化する下垂体腺腫には、最初の時点から増殖能力を示すマーカーが高かったり、周囲の組織への浸潤が見られたりするものが多いことは報告されていますが、そのような下垂体腺腫から下垂体癌への変化を予想できる因子はまだ見つかっていません。また、遺伝性の下垂体癌も報告されていません。

この病気ではどのような症状が起こりますか?

悪性下垂体腺腫による症状は、周囲の組織への物理的な進展によるものと、機能性腺腫ではホルモン過剰症状によるものとに大別されます。

下垂体癌では腫瘍が大きく広範囲に浸潤していくことが多いため、脳下垂体周辺の脳神経が圧迫されることによって眼球運動障害などの脳神経症状が現れたり、頭蓋内へ侵入して脳や脳幹を圧迫することによって意識障害や麻痺などの神経症状が現れたりします。

下垂体癌では、プロラクチン(乳汁分泌ホルモン)、副腎皮質刺激ホルモン、成長ホルモンを産生するタイプが多いことが知られています。薬物治療への反応も乏しいため、非常に高いホルモン値を示して、それぞれのホルモンに応じた全身合併症が現れます。詳しくは各々のホルモン産生下垂体腺腫のページをご覧ください。

一方、ほとんど全ての症例で、正常な下垂体からのホルモン分泌が障害されて、不足しているホルモンの補充が必要となります。

この病気にはどのような治療がありますか?

良性腫瘍の治療の原則は手術で全摘出を目指すことですが、下垂体癌では広範囲に浸潤して播種や転移も生じているため全摘出は困難です。手術による切除に、放射線療法や、抗癌剤を用いた化学療法を併用して腫瘍の制御を図ります。近年では、悪性脳腫瘍(神経膠腫)の治療に用いられている抗癌剤のテモゾロミドを使用して、下垂体癌が縮小し生存期間を延ばせる例が多いことが知られるようになってきました。ただし、現状では健康保険診療の対象外となりますので、投与については慎重に検討する必要があります。

この病気はどのような経過をたどりますか?

下垂体腺腫の播種や転移が見つかって下垂体癌と診断された時点で、何度も手術や放射線療法、薬物療法を繰り返しており、有効な治療法があまり残されていない症例がほとんどです。そのため、短期間に病状が進行して不良な転帰となることが多いとされます。

下垂体腫瘍と診断されました。下垂体癌になる恐れはありますか?

繰り返しとなりますが、下垂体腺腫の大半は良性腫瘍であり、悪性化して下垂体癌となる例はごくごく少数です。注意すべき点として下垂体やその周辺に発生する腫瘍性および腫瘍類似疾患には、下垂体腺腫のみならず、頭蓋咽頭腫、髄膜腫、胚細胞性腫瘍、ラトケ嚢胞、クモ膜嚢胞、海綿状血管腫、下垂体炎、視神経膠腫などなど、多様な診断が考えられます。また、他の臓器の癌が下垂体へ転移を生じて転移性下垂体腫瘍となることもまれにあり、これは下垂体癌とは区別して考えられます。疾患の種類によって経過や治療法は大きく異なるため、担当医から疾患や治療方針についてよくご説明をお聞きになってください。

このページの先頭へ