日本内分泌学会

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下垂体後葉の腫瘍

最終更新日:2019年11月9日

下垂体後葉とは? その障害は?

下垂体は下垂体ホルモンを産生・分泌する前葉(腺下垂体)と視床下部ホルモンを分泌する後葉(神経下垂体)に二分され、両者は発生学的にも機能的にも大きく異なった組織です。下垂体後葉は前葉の裏側(背側)に存在し、視床下部と下垂体茎を介して連続しています(神経下垂体)。したがってその基本構造は脳(髄質)と類似しています。視床下部ホルモンである抗利尿ホルモン(バゾプレッシン)とオキシトシンは視床下部で産生され下垂体茎を通りこの下垂体後葉から血中に放出されます。下垂体茎や後葉が広範に障害されると抗利尿ホルモンの分泌が障害され腎臓での水の再吸収が行われず多尿をきたします(中枢性尿崩症)。

下垂体後葉からはどのような腫瘍が発生しますか?

下垂体後葉からは稀ですが脳組織と類似した腫瘍(グリオーマ:膠腫)が発生します。グリオーマは脳の神経細胞の支持細胞である膠細胞(グリア)から発生する腫瘍ですが、下垂体後葉ではピツイサイト(下垂体細胞)と呼ばれる特殊に分化した膠細胞に由来する腫瘍が発生します。とても稀な腫瘍ですが(全脳腫瘍の0.1%以下)、トルコ鞍内(後葉)からも鞍上部(下垂体茎)からも発生します。組織名は下垂体細胞腫(ピツイサイトーマ)や顆粒細胞腫などと呼ばれ、大多数はとてもおとなしい良性腫瘍です。従来は解剖などで偶然に見つかることの多い腫瘍でしたが、最近は高精度MRIの普及もあり発見される頻度が増えています。

下垂体後葉の腫瘍に伴う症状は?

きわめて緩徐に増大する腫瘍であり本腫瘍に特有の症状はありません。神経下垂体(後葉・下垂体茎)から発生しますが尿崩症で発症することは稀です。したがって下垂体の偶発腫瘍として発見されることも少なくありません。腫瘍が増大した場合は周囲組織を圧迫し頭痛や視力視野障害を呈することがあり、また下垂体前葉の機能障害(主に月経障害やインポテンツ、倦怠感など)もみられようになります。このような症候例は40-60歳台の成人が中心です。

検査法は?

本腫瘍には特有の症状がないだけでなく特異的な検査所見も乏しいとされています。下垂体機能低下症や高プロラクチン血症などの内分泌機能障害は症候例の約半数に認めると報告されています。下垂体MRIでも一部を除き特徴的な所見は乏しく、このため非機能性下垂体腫瘍と診断されてしまうことがと多い腫瘍です。現在一般に下垂体腫瘍に対して行われませんが、脳血管撮影を行うと豊富な血流(腫瘍陰影)を認めることが多いとされています。鑑別を要する腫瘍は非機能性下垂体腺腫や時に頭蓋咽頭腫などがありますが、診断の確定には組織診断が必要となります。

治療の適応と治療方法は?

症状のない無症候例は経過観察(定期的な内分泌検査とMRI によるフォロー)が原則であり、症候例や進行性に増大する場合は外科治療の適応となります。外科治療の多くは経鼻的摘出術が行われます。手術中の所見は通常の下垂体腺腫と異なり、線維性で硬く、とても出血し易く、また正常組織との境界不明瞭な腫瘍であることが知られています。全摘出が難しいことも多く、また術後に尿崩症や下垂体機能障害を合併することも少なくありません。

手術後の残存腫瘍は長期的に再増大を呈することも少なくありません。このため腫瘍の摘出度やその組織所見などをみて放射線治療(定位放射線治療)や再手術(追加切除)を検討します。

下垂体後葉の腫瘍の経過と予後は?

無症候例の多くは増大することなく経過し予後はとても良好と報告されています。症候例も腫瘍が全摘出されれば再発の可能性はありませんが、部分摘出にとどまった場合は上記の追加治療が必要となります。大多数の予後は良好であり、悪性化の報告はありません。

 

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