日本内分泌学会

English
医療関係の皆様へ
一般の皆様へ
専門医がいる施設はこちら

遺伝性肥満

最終更新日:2019年11月24日

遺伝性肥満とは

BMIが25kg/m2以上を肥満と定義しますが、中でも、病因が明白なものを二次性肥満と言います。二次性肥満には、ホルモン異常に伴う内分泌性肥満や摂食調節を担う視床下部の異常によって生じる視床下部性肥満、遺伝性の病気に随伴して起こる遺伝性肥満などが相当し、症候性肥満とも呼ばれていました。現在では二次性肥満と名称が統一されています。遺伝性肥満には以下のような病気が知られています。1)Prader-Willi症候群、2)Bardet-Biedl(Laurence-Moon-Biedl)症候群、3)Alstrom症候群、4)Carpenter症候群、5)Cohen症候群。また単一遺伝子異常で肥満を発症する疾患として、レプチン・レプチン受容体遺伝子異常、POMC遺伝子異常、メラノコルチン4型受容体(MC4-R)遺伝子異常、プロホルモン変換酵素1(PC-1)遺伝子異常などが報告されています。

この病気の患者さんはどのくらいいるのですか?

発症頻度は、1)Prader-Willi症候群では、1-1.5万人出生に対して1人。国内では2000人程度の患者がいると言われています。2)Bardet-Biedl症候群では、欧米では1.4-16万人出生に対して1人程度、我が国ではそれより少ないと推定されています。3)Alstrom症候群は、1959年から現在までに、世界で約450例の報告があります。4)Carpenter症候群の報告は海外で約70例、我が国でも10例に満たない程度です。5)Cohen症候群は、10万人に1人ほどの罹患率であり、北欧からは多数の報告例があるようですが、日本からの報告は少なく罹患率は不明です。

この病気はどのような人に多いのですか?

遺伝的背景からの発症のため、特定の生活習慣とかには依存しません。原因遺伝子をもつ家系に発症します。

この病気の原因はわかっているのですか?

1)Prader-Willi症候群では、約70%の患者は15番染色体q11-13領域の欠失があることが報告されています。2)Bardet-Biedl症候群は常染色体劣性遺伝を示し、原因遺伝子としてBBS1-BBS17が同定されていますが、原因不明例も多いとされています。3)Alstrom症候群は常染色体劣性遺伝を示し、ALMS1遺伝子の変異が認められています。4)Carpenter症候群は常染色体劣性遺伝を示し、Carpenter症候群1型は、2007年にRAS-associated protein (RAB23)が責任遺伝子であることが報告されました。ついでCarpenter症候群II型は、2012年にMultiple epidermal growth factor-like domains 8(MEGF8)が責任遺伝子であることが報告されました。5)Cohen症候群は常染色体劣性遺伝を示し、責任遺伝子としてVPS13Bが報告されています。また前述した単一遺伝子異常症では、それぞれの遺伝子に変異が同定されています。2017年に、日本遺伝学会から優性を「顕性」、劣性を「潜性」とする用語の変換について提案がなされました。現在、遺伝形式についての名称の変更について、各学会レベルで検討されているところです。

この病気は遺伝するのですか?

記述のとおり、遺伝します。

この病気ではどのような症状がおきますか?

肥満に加えて、知能障害や性腺機能低下症が共通した特徴です。またそれぞれの疾患においての特徴的症状を列記します。1)Prader-Willi症候群では、新生児期から乳児期にかけては筋緊張低下のため運動発達の遅れが目立ち、幼児期になるとアーモンド様と記される目、開いたV字型の口といった特有の顔貌を呈します。思春期から2型糖尿病の発症も多くなってきます。2)Bardet-Biedl症候群では、上記に加えて網膜色素変性症や多指症が特徴的です。3)Alstrom症候群は、Bardet-Biedl症候群と類似した臨床像を呈しますが、多指症、知能障害を示さないのが特徴です。4)Carpenter症候群は尖頭多指癒合症とも言われており、特徴的な顔貌をしています。5)Cohen症候群は、生下時の頭囲は正常範囲ですが、徐々に小頭症になります。また5歳までに脈絡網膜ジストロフィーや高度近視などの特徴的眼科所見を認めます。

この病気にはどのような治療法がありますか?

肥満治療の原則は食事療法になります。特に幼児期よりの過食傾向が出現するため、肥満傾向が目立つようになる前からの介入が重要です。規則正しく食事をとる、ながら食いをしない、手の届くところに食べ物を置かないなどの食習慣への配慮が必要です。また体重測定とその記載を勧め、可能な範囲で体重の自己コントロールを根気強く繰り返し教育しておくことも重要です。

この病気はどういう経過をたどるのですか?

知的障害のレベルによっては、根気強い体重管理にも関わらず高度肥満症になるケースも多いと考えられます。生活習慣病の悪化とともに睡眠時無呼吸症候群などによる突然死も報告されています。一方で、レプチン遺伝子異常症に対するレプチン補充療法の確立は、生命予後を著しく向上させました。今後の医学の進歩が期待されます。

このページの先頭へ