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潜在性甲状腺機能異常

最終更新日:2020年5月11日

「潜在性甲状腺機能異常」とはどのような状態ですか

「潜在性甲状腺機能異常」とは、症状や所見には表れない程度の軽い甲状腺ホルモンの過不足状態のことを指します。甲状腺ホルモンは、脳の下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)により刺激を受けて甲状腺から分泌されています。血中の遊離甲状腺ホルモン(FT4)は基準範囲内なのに、同時に測定したTSHのみが正常値よりも高い場合を潜在性甲状腺機能低下症(甲状腺ホルモンがやや低い傾向にあり、正常に保つために多くのTSH刺激を必要としている状態)、低い場合を潜在性甲状腺中毒症(甲状腺ホルモンがやや高い傾向にあり、正常に保つため、TSH刺激が抑制されている状態)といい、合わせて潜在性甲状腺機能異常と呼びます。

表 甲状腺機能異常のみかた

遊離甲状腺ホルモン
(FT4)
    甲状腺刺激ホルモン
(TSH)
    甲状腺の状態
上昇 低下 顕性甲状腺中毒症
正常 低下 潜在性甲状腺中毒症
正常 正常 正常
正常 上昇 潜在性甲状腺機能低下症
低下 上昇 顕性甲状腺機能低下症

「潜在性甲状腺機能異常」の患者さんはどのくらいいるのですか

潜在性甲状腺機能低下症は健康な人の3.3~6.1%に、潜在性甲状腺中毒症は健康な人の0.8~2.3%にみとめられるといわれています。いずれも、女性に多く年齢が上がるにつれて増加します。

「潜在性甲状腺機能異常」の原因はわかっていますか

基本的には、顕性甲状腺機能異常(TSHだけでなく甲状腺ホルモンも正常より上昇または低下している状態)と同じ原因で生じます。すなわち、潜在性甲状腺機能低下症の原因として多いのは、橋本病、ヨウ素過剰(海藻多食、薬剤、造影剤など)、甲状腺手術後、アイソトープ治療後などです。その他の原因としては、頸部放射線照射後、破壊性甲状腺炎の回復期などがあります。
潜在性甲状腺中毒症の原因として多いのは、バセドウ病、無痛性甲状腺炎などです。その他、機能性甲状腺結節や機能性多結節性甲状腺腫など甲状腺ホルモンを過剰産生する疾患によって生じることがあります。

「潜在性甲状腺機能異常」ではどうような症状がありますか

自覚症状はないことがほとんどです。潜在性甲状腺機能低下症では、高コレステロール血症や心機能低下、女性では不妊や流産との関連が指摘されています。潜在性甲状腺機能亢進症では、心房細動や骨折のリスクがあがるとの報告があります。

「潜在性甲状腺機能異常」は治療が必要ですか

まずは一過性でないことを確認するため、1-3ヶ月ほど後に再検査します。
その異常が持続していて、TSHが10µU/mlを超えている場合に治療対象となります。
昆布、ヨードを含んだ卵、ヨウ素含有咳嗽液などのヨウ素過剰摂取があれば、ヨウ素摂取制限をおこなったのち再検査してから合成T4製剤(チラーヂン®S、レボチロキシンNa)の内服を開始します。TSHが10µU/ml以下の場合は、高コレステロール血症の有無などに応じて、合成T4製剤の内服を行うかどうか検討します。
潜在性甲状腺中毒症では、心房細動や骨粗鬆症のリスクを考慮して治療を行うか検討します。

妊娠希望のある場合や妊娠中の「潜在性甲状腺機能低下症」は治療が必要ですか

妊娠希望のある、または妊娠初期の女性で甲状腺自己抗体が陽性の「潜在性甲状腺機能低下症」は、流・早産や妊娠高血圧症候群のリスクが高く、治療によりそのリスクを改善できる可能性が高いので、TSH2.5µU/ml以下を目標に、合成T4製剤(チラーヂン®S、レボチロキシンNa)の内服を開始します。甲状腺自己抗体が陰性であっても、不妊治療中である場合や流産を繰り返している場合など、治療による効果を期待して合成T4製剤(チラーヂン®S、レボチロキシンNa)治療を行うこともあります。

油性ヨウ素含有造影剤による子宮卵管造影検査を行っている場合は、検査前潜在性甲状腺機能低下症だと3人に1人は検査後数か月で顕性甲状腺機能低下症になり、検査前甲状腺機能が正常な場合は5人に1人が潜在性甲状腺機能低下症になるが一過性であるとの報告があり、注意が必要です。

「潜在性甲状腺機能異常」はその後どういう経過をたどるのですか

持続性の潜在性甲状腺機能異常の一部は、顕性の甲状腺機能異常に移行します。よって、数か月から数年後に経過をみていくことがすすめられます。特に甲状腺自己抗体陽性の潜在性甲状腺機能低下症は、1年に4.3%の人が顕性甲状腺機能低下症になると報告されています。この頻度は甲状腺自己抗体陰性でTSHが正常の人の38倍とされています。

 

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