日本内分泌学会

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褐色細胞腫

最終更新日:2019年11月4日

褐色細胞腫とは

アドレナリンやノルアドレナリンなどのカテコラミンの産生能を有する腫瘍で、狭義では副腎髄質由来の腫瘍を指します。広義では、交感神経節由来の腫瘍を含み、副腎以外に発生するものは、副腎外褐色細胞腫あるいはパラガングリオーマと呼ばれます。血中および尿中カテコラミン高値からこの病気を疑いますが、カテコラミンの上昇は緊張や興奮でも見られ、特異性が低いため、カテコラミン代謝物であるメタネフリン分画の尿中測定が、特異性の高い検査として有用視されています。また、カテコラミン産生能を確認する画像検査として、123I-MIBGシンチグラフィーも有用です。

この病気の患者さんはどのくらいいるのですか?

高血圧患者に占める割合は1%未満と考えられていますが、最近、高血圧などの症状を呈さず、副腎偶発腫瘍として発見される頻度が増えています。副腎偶発腫瘍に占める割合は10%近く、頻度としても上位に位置するため、副腎偶発腫瘍の精査過程では、十分に念頭において検査を行う必要があります。

この病気の原因は何ですか?

副腎髄質あるいは交感神経節に発生する腫瘍が原因となります。約1/4の症例にRETやVHL、SDHなどの遺伝子の胚細胞変異が確認され、腫瘍化との関連が示されています。様々な遺伝子異常が同定されており、今後もさらに原因が解明されていくことが期待されます。

この病気は遺伝するのですか?

上述のとおり、これまで複数の遺伝子胚細胞変異が報告されており、これらは遺伝することが示されていますが、すべての褐色細胞腫が遺伝性ではなく、弧発例の方が多数を占めます。MEN2型*1やvon Hippel Lindau病*2は、遺伝性褐色細胞腫を呈するものとして古くから知られていますが、近年、家族性パラガングリオーマの原因としてコハク酸脱水素酵素(SDH)サブユニットの変異が報告され、中でもSDHBは悪性度との関連が強く、注目されています。


*1)MEN2型とは
遺伝子の異常により複数の臓器に内分泌腫瘍を発症する病気を、多発内分泌腫瘍症(multiple endocrine neoplasia)、略してMENと呼び、これには1型と2型があります。1型は、下垂体・副甲状腺・膵臓の3箇所のうち2箇所に内分泌腫瘍が生じた場合に診断されます。2型は、甲状腺髄様癌・副腎褐色細胞腫・副甲状腺腫瘍のうち2つを発症した場合に診断され、RET遺伝子がその原因遺伝子と言われています。家族歴があり、複数の内分泌臓器に腫瘍を認めた場合は、この病気を疑います。


*2)von Hippel Lindau(フォンヒッペルリンドウ)病とは
VHLという遺伝子の異常により複数の腫瘍を生じる病気で、主には網膜血管腫、小脳や脊髄の血管芽腫、腎細胞癌、副腎褐色細胞腫、膵腫瘍などから構成されます。すべての腫瘍が発症するとは限りません。家族歴があり、褐色細胞腫にこれらの腫瘍のいずれかの合併を認めた場合は、この病気を疑います。褐色細胞腫は、両側副腎に発症することも稀ではありません。
リンク:http://www.nanbyou.or.jp/entry/689

この病気ではどのような症状がおきますか?

カテコラミンの昇圧作用により多くの症例が高血圧を呈します。発作性高血圧を呈する場合は、よりこの病気への特異性が高まります。その他、頭痛、動悸、発汗過多、体重減少、便秘、蒼白症状なども呈し、これらの症状が揃っているときは、強くこの病気を疑います。また、耐糖能異常を呈することもあり、この病気の治癒と同時に糖尿病も治癒する症例があります。

この病気にはどのような治療法がありますか?

治療の中心は、腫瘍の摘出術ですが、周術期のカテコラミン過剰症状の管理も重要です。診断時より手術日に向けて、α遮断薬を漸増して行きます。α遮断薬の術前投与は、血圧コントロールに加え、体液量の回復も意図しています。α遮断薬投与で、血圧低下あるいは起立性低血圧を認める症例は、術前に十分な補液が必要となります。動悸症状が強い場合は、β遮断薬も併用します。術前のα遮断薬投与が不十分なまま手術を迎えると、術後に過度の血圧低下を起こします。褐色細胞腫は、約1割が悪性(注)であると考えられています。悪性の場合も、ホルモン症状のコントロールを目的として、病巣の摘出手術が行われます。摘出困難な病巣を有する場合は、化学療法(CVD療法)や分子標的薬治療(スニチニブなど)、131I-MIBG内照射、TACEなどの塞栓療法も選択されます。海外では、カテコラミン合成酵素阻害剤(αパラメチルチロシン)などもカテコラミン過剰症状のコントロールには有用な治療として用いられ、本邦でも使用承認が待たれています。
注)手術標本の病理所見で悪性と診断することは困難です。悪性褐色細胞腫は、肝臓や骨、リンパ節など交感神経節外に病巣を認めた場合に、「転移あり」として、はじめて診断がつきます。

この病気はどのような経過をたどるのですか?

カテコラミン分泌の程度は症例によって大きく異なり、カテコラミン分泌が強い症例では、重症心不全やたこつぼ型心筋症に至ることもあります。無症候性に経過する症例もありますが、薬剤投与や侵襲的検査などをきっかけにカテコラミン分泌が急に上昇することがあり、カテコラミンクリーゼを来たすリスクは常に存在するため、無症候性のものも手術治療が勧めらます。手術治療後は、カテコラミンの急な低下に伴い、低血圧や低血糖、食思不振などを来たすことも多く、十分な周術期管理を要します。悪性褐色細胞腫の予後は、症例により大きく異なります。数ヶ月~数年と比較的短期間で死の転帰をとるものから、病勢コントロールのための治療を繰り返し受けながら10年以上生存する症例もあり、状況に合わせて適切な治療を選択する必要があります。

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