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多発性内分泌腫瘍症(Multiple Endocrine Neoplasia:MEN)

最終更新日:2019年11月13日

多発性内分泌腫瘍症(Multiple Endocrine Neoplasia:MEN)とは

多発性内分泌腺腫症(以下MENと略す)は、2腺以上の内分泌腺に特定の組み合わせで腫瘍が発生する疾患であり、その腫瘍の組み合わせでMEN 1とMEN 2に分類されます。

Multiple endocrine neoplasia type 1(MEN 1)はどんな病気ですか

MEN1は複数の内分泌腺に腫瘍を多発する遺伝性疾患で、一般に家族性で常染色体優性遺伝の形式で遺伝しますが、散発性も存在します。診断には、副甲状腺腫瘍、膵内分泌腺腫瘍、下垂体腫瘍のうち少なくとも2つが存在していることが必要であり、3つすべてが存在するのは20%程度です。

原因は

MEN1の原因遺伝子は11番染色体長腕上に位置し、10個のエクソンを含み610個のアミノ酸からなる蛋白(menin)をコードしているがん抑制遺伝子です。

症状は

臨床症状として現れる頻度は副甲状腺が80~98%、膵および十二指腸が40~85%、下垂体が9~40%です。

a. 副甲状腺腫瘍

MEN1の診断の最も発端になりやすい腫瘍で、MEN1の副甲状腺腫瘍は一般に4腺のびまん性あるいは結節性過形成が多いです。通常25歳までに発症する場合が多く、40歳で90%、50歳までにほとんど100%合併します。年齢とともに進行傾向、多腺の罹患傾向を示し、血清PTHやカルシウムの高値が著明な例が多くなります。

b.膵内分泌腫瘍

ガストリノーマ(40%)、インスリノーマ(10%)、非機能性腫瘍(20%)が多く、低頻度にグルカゴノーマ、VIPやソマトスタチン産生腫瘍がみられます。一般に微小腫瘍が多発することが特徴ですが、時に大型のものも発生します。ガストリノーマは十二指腸・膵頭部に発生することが多く、肝を中心とする遠隔転移やリンパ節転移を来す悪性例が半分以上存在するので注意が必要です。しかし、微小腫瘍が多いため、局在診断が困難で、摘出術後に再発する例も多く、血清ガストリンの著明高値や腫瘍サイズが大きい場合は要注意です。

c.下垂体腫瘍

MEN1の約半数例に合併し、発症年齢の平均は30歳代です。下垂体病変は主に腺腫で、プロラクチン(20~40%)、GH(5%)、プロラクチンとGH同時産生(5%)、非機能性(5%)が多い。

d.その他の腫瘍や病変

MENⅠに合併する腫瘍で悪性例の頻度が高く、要注意なものとして胸腺や気管支のカルチノイドがあり、それぞれ2%程度にみられる。胸腺カルチノイドはほとんど男性で60%に転移を起こし、高齢や喫煙例で悪化しやすい。一方、気管支カルチノイドは女性に多く、3/4は良性です。副腎腫瘍も25%にみられ、基本的に良性で非機能性が多い。

診断検査

MEN1の遺伝子診断が可能となり、治療方針の決定のためにも有用です。また、家族例ではキャリアの発見と経過観察により、腫瘍の早期治療が可能となります。

治療

副甲状腺腫瘍では4腺すべてを摘出し、1腺の一部(約60mg)を非利き腕の前腕に自家移植します。下垂体腫瘍では通常と同様に摘出術が行われるが、非機能性であれば経過観察する場合もある。膵・十二指腸に関しては、唯一悪性腫瘍の可能性があり、治療法の選択が難しい。ガストリノーマではselective arterial secretin injection testで腫瘍の局在を決めた後に悪性腫瘍であることを前提に根治手術を行う。MEN1の予後は必ずしも楽観できるものではなく、遺伝子診断を基に的確な発症予測を念頭に置いた経過観察が必要です。

 

Multiple endocrine neoplasia type 2(MEN 2)はどんな病気ですか

MEN2には2A型と2B型、更にその亜型があります。2A型は甲状腺髄様癌、褐色細胞腫、副甲状腺機能亢進症(または副甲状腺腫瘍)を発症します。MEN2Bは甲状腺髄様癌、褐色細胞腫を発症しますが、副甲状腺機能亢進症の発症はありません。MEN2Bはマルファン様症状を呈したり、神経腫を発症したりします。

原因は

MEN2の原因遺伝子は10番染色体長腕上にあるRET proto-oncogeneの点突然変異が原因です。MEN2Aは常染色体優性遺伝を示す疾患で、家族内発症が濃厚です。RET遺伝子発現蛋白質は神経由来臓器の発生に関与することから、MEN2Aの発症も小児を含めた若年者に多いです

症状は

MEN2Aでは甲状腺髄様癌が発症し、次いで褐色細胞腫が認められることが多く、副甲状腺機能亢進症は軽度です。一方、MEN2Bでは粘膜神経腫による口唇や舌の肥厚・小結節、マルファン様体型が先ず現れるため、小児期に診断されることが多いです。

a. 甲状腺髄様癌

甲状腺にほぼ均等に分布するカルシトニン分泌細胞の過形成です。両側甲状腺に発症し、また甲状腺内で多発性に出現する特徴があり、経過とともに細胞の性質が悪性転換するが、多くは思春期で発見される。悪性転換は当該腫瘍の腫大による近傍臓器圧迫や血流障害を生じるが、その時期には既に転移を生じており、肺への転移は予後を決定する。甲状腺髄様癌の局在診断には、超音波検査が有用です。

b.褐色細胞腫

副腎髄質内に多発性に出現し、エピネフリン(またはアドレナリン)分泌を測定することによって診断が可能です。また、その代謝産物であるメタネフリンの過剰分泌の確認も診断に有用です。症状としては、カテコールアミン分泌過剰による高血圧、交感神経系緊張症状などが認められます。すべての褐色細胞腫に共通するわけではありませんが、多くは悪性転換します。CTやMRIなどに加え、MIBGシンチグラフィーが画像診断として有用です。

c. 副甲状腺機能亢進症または副甲状腺腫瘍

原発性副甲状腺機能亢進症は、甲状腺髄様癌や褐色細胞腫と異なり、併発率は低く(15-20%)、悪性像を示す症例はまれです。診断には副甲状腺ホルモン値の上昇を確認します。

治療

甲状腺髄様癌では外科的治療を優先しますが、褐色細胞腫が存在する場合はこの外科的治療を優先します。しかし、外科的摘除後も高カルシトニンが継続することが多く、転移を想定してシンチグラフィーによる画像診断での継続観察は必須です。転移、再発などに対しても再手術は生命予後に効果があります。
褐色細胞腫にも外科的治療が優先されます。診断時に転移巣を発見するのは難しく、病理学的には良性細胞による腫瘍と判断されても、術後、数年を経て、領域リンパ節、骨、肝、肺などへの転移が明瞭になることが多い。

遺伝子検査や予防的手術は

MEN2では成人に達する以前に甲状腺髄様癌、あるいはその前段階の変化が甲状腺に生じてきます。したがってMEN2の患者さんのお子さんに対するスクリーニング(ホルモン検査や画像検査)をいつ始めるか、あるいは遺伝子検査をいつ行うかはとても重要な問題です。遺伝子検査は年令に関係なくもっとも信頼性の高い検査であり、早目に遺伝子検査してMEN2の体質があるかどうかを診断することは、予防的手術で甲状腺髄様癌の発生を防ぐためには有用だと考えられます。しかし、遺伝子検査を受けるか受けないかは遺伝子検査の特殊性を十分に理解した上で本人が決めるのが原則です。また、現在の日本で早期に予防的手術を行っている医療機関は少ないと思われます。更に詳細を知りたい方は、全国のMEN専門外来やMEN患者と家族の会等なども参考になると思います。

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