日本内分泌学会

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頭蓋咽頭腫

最終更新日:2019年11月9日

頭蓋咽頭腫とは

良性脳腫瘍の代表的なもののひとつで、胎生期のラトケ嚢胞の遺残上皮細胞から発生します。脳からぶら下がる、内分泌機能の中枢である脳下垂体の茎の部分に発生し、一部嚢胞(袋)を有する腫瘍です。嚢胞内はモーター油に似た内用液とコレステロール結晶を含みます。

この病気の患者さんはどのくらいいるのですか?

脳腫瘍の発生は年間1万人に1人くらいといわれています。頭蓋咽頭腫は、これら原発性脳腫瘍の約3 %の頻度で発症します。すなわち、人口100万人に年間約3人が発症します。

この病気はどのような人に多いですか?

発生年齢分布は10歳代の小児と40~60歳台の成人の2峰性を呈します。全体の患者さんのうち約25%が20歳以下で、小児原発性脳腫瘍では4番目に多く、8.9%を占めるといわれています。性差はありません。

この病気の原因はわかっているのですか?

発生機序としては、遺残上皮細胞、あるいは扁平上皮化生した前葉細胞、中間葉の細胞などのシグナル伝達経路の構造的活性化が原因の一つではないかと言われています。

この病気は遺伝するのですか?

遺伝することはありません。

この病気ではどのような症状がおきますか?

頭痛、視力視野障害、視床下部・下垂体性内分泌機能障害で発症します。腫瘍が視神経の交叉部を圧迫すれば、非対称性で両側の外側が見えにくいという視野狭窄をきたします。一方、内分泌機能障害としては、小児では身長が伸びない、色白、女児では生理がおきないなどの症状がみられ、成人では全身倦怠、集中力低下、寒さに弱くなる、口渇感、水分を多く飲む、何回も排尿をするなどの症状を認めます。視床下部症状として高次機能障害を発症することもあり、記憶障害、注意力低下、処理速度の低下がみられることがあります。食欲や体温の中枢も腫瘍の発生部分に近いところにあるため、食欲障害や体温の異常などがみられることもあります。さらに腫瘍が大きくなると脳脊髄液の通過障害が起こり水頭症となり、頭痛、認知障害、歩行障害、嘔吐などを認めます。

この病気にはどのような治療法がありますか?

腫瘍自体に対しては、外科手術、放射線治療、嚢胞内治療(袋の中に薬剤を注入)がありますが、第一選択は、手術による摘出です。全摘出が望ましいのは当然ですが、腫瘍の境界には極めて重要な視床下部や視交叉、下垂体茎があるため、全摘できないこともあります。残存腫瘍や再発に対しては放射線治療が効果的です。嚢胞性腫瘍の場合では嚢胞液が再貯留しやすいので、細管を嚢胞内に留置して薬剤を投与する方法もあります。手術では、鼻の穴から行う経鼻的拡大蝶形骨手術と頭を開ける開頭手術の2つの方法があります。手術による摘出で視力視野障害の多くは改善しますが、全摘出がなされるほど術後の下垂体視床下部症状(ホルモン分泌低下、尿崩症)が強く出現します。副腎皮質ホルモンや成長ホルモン等のホルモン補充や尿崩症に対する抗利尿ホルモンの点鼻を必要としますが、適切な補充により正常な発達や日常生活が可能となります。非全摘例に放射線治療を加えることにより、全摘手術例と同じ生存率がえられます。すなわち、個々の症例に応じて、手術、放射線の両治療法の長所を組み合わせて、手術で腫瘍をできるだけ減らし、残存があれば放射線治療を行い、必要に応じたホルモン補充療法を加えるのが現在の治療法と言えます。

この病気はどのような経過をたどるのですか?

良性腫瘍ではありますが、再発の多い腫瘍であるため、長期にわたった経過観察が必要です。手術で全摘出来たと判断しても再発することがあり、残存した場合は、さらに再増大がおきやすいため、定期的に術後もMRIで検査を行います。治療前後を通して、患者さんは、ホルモン補充療法が必要になることが多いため、脳神経外科医、内分泌内科医、そして小児科医の連携のもとに診療が継続されます。熟練した医師たちの診療により、多くの患者さんは、以前の学生生活や就業、家庭生活にもどることができます。

 

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