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下垂体及び近傍疾患の手術療法

最終更新日:2019年11月9日

下垂体及び近傍疾患の手術療法

下垂体及びその近傍の疾患で、手術的治療法が必要になるものはどんな状態の時ですか。
一つには病変が大きく周囲に影響(占拠性病変と言います)を与えている場合(症状は視野異常や下垂体機能低下が主体となります)。2つ目は、腫瘍が小さくても、機能性の下垂体腫瘍のように、過剰にホルモンを産生する腫瘍では、過剰なホルモンの産生を是正すために腫瘍を外科的に切除する場合です。そのためにはその疾患による症状と、MRIを主体とした画像による病変の評価をまず行います。さらに病気の種類も重要で、既に視機能障害等を呈するぐらい大きな腫瘍でも、薬物で腫瘍が急激に縮小することが期待できる、プロラクチノーマ(PRL産生下垂体腫瘍)やリンパ球性下垂体炎等では薬物療法が治療の第一選択肢となります。また化学療法と放射線が治療の主体となる、頭蓋内悪性腫瘍の一つである胚細胞腫も、腫瘍を外科的に切除することが治療の第一選択肢となることはありません(組織診断のための生検術は除く)。

手術的治療法にはどんなものがありますか

基本的には腫瘍を上からアプローチして切除する開頭術と、下からアプローチを行い切除する経鼻法(経蝶形骨洞法とも呼ばれます)に大別されます。現在では多くの腫瘍は、経鼻法にて切除が試みられています。この方法は、開頭術に比べ、腫瘍に達するまでに脳を剥離したり圧迫したりという侵襲的な操作を行うことなく、腫瘍に達するのが最大の利点です。 しかしその一方で得られる視野が狭く、より高度な技術が必要となります。 しかし最近ではこのような欠点があった手術用顕微鏡から、内視鏡をこの手術に応用することで、より広角でパノラマ的な手術視野が得られるようになりました。 また従来は経鼻手術は、トルコ鞍原発の下垂体腺腫が適応で、大きく頭蓋内に進展する腫瘍や、頭蓋咽頭腫、鞍結節髄膜腫などは開頭術の適応と考えられていました。しかし近年では頭蓋底を大きく解放するアプローチの応用(拡大経鼻手術と呼ばれています)で、従来は経鼻手術が禁忌とされていたこれら腫瘍も、できるだけ低侵襲の経鼻法にて切除が行われるようになって来ています。 これには術中の髄液漏の閉鎖方法の確立や内視鏡の応用も寄与しています。また近年では拡大経鼻手術でも切除がまだ困難な、巨大浸潤性下垂体腺腫などでは、開頭術と経鼻手術を同時に施行して、可能な限り腫瘍を一期的に、より安全で、最大限の腫瘍切除が可能となる、開頭術・経鼻手術同時手術(combined approach)も考案、応用されだしています。

再手術療法の適応と問題点

機能性腺腫の手術後の非治癒例では、薬物や放射線療法が術後の補助療法として施行されます。一方その他の腫瘍では、術後の再発予防のために、放射線療法が施行されます。しかしこれらの補助療法を施しても、過剰に分泌されるホルモンが正常化しない場合や、腫瘍の明らかな再発を認めている場合には、再手術が適応となることがあります。ただし画像上腫瘍陰影が一箇所に見えても数カ所に腫瘍が残存している可能性や(腫瘍の分断化)、腫瘍の繊維化など初回の手術と比較し、一般に再手術は困難で手術成績は不良です。従って症例の選択には慎重であるべきことは無論、手術は下垂体外科を専門とする経験豊かな外科医に委ねることがとても大事になります。

手術や術後の合併症にはどんなものがありますか

本来の疾患の状況、選択した手術アプローチの違いなどで、合併症の頻度や種類も異なります。 通常の大きな下垂体腫瘍では手術と関連する死亡率は<1%、合併症も5%以下と比較的安全な手術と考えられています。更に術前の視機能障害の改善は通常良好です。しかし下垂体前葉機能障害については、その多く(60-70%)は術前と変わらず、改善が得られる症例は20%以下と報告されています。これに対し頭蓋咽頭腫では、下垂体腫瘍同様、術後の視機能障害の改善は良好ですが、下垂体機能は多くの症例で術後悪化するのが一般的です。 またラトケ嚢胞などでは単純な嚢胞の解放術にもかかわらず、術後下垂体機能低下を合併することがあります。最も重篤な合併症の一つに術後の髄液漏があります。特に拡大経鼻手術では術中の髄液漏は必発で、これを確実に修復し、術後髄液漏を未然に予防することが外科医に求められています。その他、頻度は低いものの、重篤なものとして、髄膜炎、視機能障害、眼球運動障害、内頸動脈損傷などが合併する可能性があります。術後の鼻腔内の合併として、鼻出血、鼻閉感、臭覚障害、副鼻腔炎なども考慮しておく必要があります。

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